『果てしなきスカーレット』公開2週目でトップ10圏外の大惨敗、レビューも酷評続出…名作『サマーウォーズ』『おおかみこども』との“決定的な違い”
画像を見る 映画『果てしなきスカーレット』公式サイトより

 

■“選ばれない作品”に…興行収入が苦戦している背景とは?

 

今年公開の長編アニメーション映画では、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座 再来』(7月公開)が公開初日から3日間で興行収入が55億2,000万円を突破し、日本映画史上のオープニング記録を更新。続く『チェンソーマン レゼ篇』(9月公開)も、公開初日から3日間で興行収入が12億5,000万円を突破する大ヒットスタートとなった。

 

『果てしなきスカーレット』も公開前から期待が寄せられていたが、ふたを開けてみれば前述の苦しい出だしに。公開初日から3日間で興行収入8億9000万円を記録した細田氏の前作『竜とそばかすの姫』(’21年7月公開)と比較しても3分の1にも満たず、苦戦していると言えるだろう。

 

「今では社会現象級または国民的なコンテンツのアニメ映画が特大ヒットを記録するのに対し、原作の知名度があまり高くなかったり、オリジナル企画の作品が苦戦する傾向がさらに強まっています。本作はその傾向があってもなお、これまでの細田監督の映画とはイメージが異なる作風に果敢に挑んでいるといえるのですが、『鬼滅』や『チェンソーマン』でライト層が1年に数回の映画館に運ぶモチベーションはすでに消化されているでしょうし、それらが公開中という現状では“選ばれない作品”になってしまったと思うのです。

 

さらに、細田監督のブランド力がかなり低下してしまったタイミングでもあったと思います。前作『竜のそばかすの姫』は最終興行収入が66億円と大ヒットをしていましたが、後半の展開は“ツッコミどころ満載”“大人たちの対応がおかしい”といった厳しい声が多くありました。それ以前から積み重なっていた“細田監督が単独で手がけている脚本への不信感”もまた、今回の興行的不振へつながってしまったのではないでしょうか」

 

ではストーリー上では、どのような部分が不評を買ってしまったのだろうか?

 

「『果てしなきスカーレット』の批判意見で多く見られるのは、『場面転換が唐突』『世界設定が杜撰』『キャラクターが“書き割り”のように思えて感情移入できない』ということです。それらの原因は、細田監督が明言している“古典からの影響”にもあるのではないでしょうか。

 

たとえば、“キャラクターが声を荒げて気持ちを全部言う”や“場面が急に切り替わる”ような“舞台っぽい”演出には、シェイクスピアの『ハムレット』が。“抽象的かつ主人公の心象風景のような死者の国という世界”には、ダンテの『神曲』が表れていると見ることができます。

 

もちろん、元の作品から不備があったというわけではありません。それらの要素の取り入れ方が中途半端または粗雑な印象がある上に、“舞台劇であれば許容できたかもしれない特徴”を“確固たる世界観や実在感のあるキャラクター描写が必要な映画”に落とし込んでいるため、『セリフが軒並み直接的で不自然』『こう言っていたキャラが、後半であんな行動を取るのはおかしい』といった“都合の良さ”や“ツッコミどころ”になってしまったのではないでしょうか」

 

いっぽう細田氏といえばフリー転身後、『時をかける少女』(’06年7月公開)や『サマーウォーズ』(’09年8月公開)、『おおかみこどもの雨と雪』(’12年7月公開)など長編アニメーション映画において数々のヒット作を生み出してきた。その間には、製作体制に変化も見られた。

 

『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』は、大ヒット映画『国宝』も手掛けた脚本家・奥寺佐渡子氏(59)が脚本を担当(『おおかみこどもの雨と雪』は細田氏との共同脚本)。

 

だが、以降の『バケモノの子』(’15年7月公開)、『未来のミライ』(’18年7月公開)、『竜とそばかすの姫』は細田氏が原作・監督・脚本を担当し、『果てしなきスカーレット』まで“単独体制”が続いている(なお、『バケモノの子』は奥寺氏が脚本協力にクレジットされている)。

 

「細田監督は『果てしなきスカーレット』の企画のアイディアが『世界のいろいろな場所で戦争が起こった』ことに加えて、『コロナに感染して看護師たちの優しさに救われた』という自身の経験にもあったと明言しています。しかし、それもまた『中世ヨーロッパ風の世界に日本の看護師が迷い込む“異物感”』や『渋谷のミュージカルシーンの“唐突さ”』という批判へとつながってしまっていると思えるのです。

 

これらから鑑みるに、最近の細田監督作品にある問題は“脚本を他の人に任せればいい”という単純なものではなく、“複数の要素があまりにまとめきれていないので、企画段階で誰かが介入する必要があるのではないか”とも思えます。

 

実際に『おおかみこどもの雨と雪』の劇場パンフレットでは、共同脚本を手がけた奥寺佐渡子さんが『細田監督が作ってきたシノプシス(あらすじ)のなかに、すでに物語の要素がすべてつまっていた』『監督のなかにやりたいことが明確にあった』からこそ、細田監督に『今回は一緒に書いていただきたい』とお願いをしていたことが書かれています。

 

その上で、奥寺さんが第1、2稿、細田監督が第3、4稿を書き、第5稿でまとめて、『おおかみこどもの雨と雪』の脚本が完成したとのことです。その共同脚本の試みは『企画段階からの調整』に重なっているといえますし、今後は、そうしたステップに戻ってもいいのかもしれません」

 

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出典元:

WEB女性自身

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