■戦争の傷は、子や孫の世代まで続く
映画が描くのは、戦場での殺し合いだけではない。監督が今回、特に重視したのが、戦争PTSDの問題だった。
「ここ数年で、戦争PTSDが非常に大きな問題として浮かび上がってきました。
戦争に行った本人だけの苦しみではない。帰還後、家族に暴力を振るってしまい、その家族も傷つき、今度は自分の子ども——つまり孫にまで暴力を振るってしまう。そうやって暴力の連鎖が続いてしまうことがあるんです」
映画の終盤には、リリー・フランキーさん(62)演じる日本人男性「黒井」が登場する。モデルの一人となったのは、2018年に「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」を立ち上げた黒井秋夫さん(77)。日中戦争から帰還した父親の異変に苦しみ、後年になって、それが戦争によるPTSDだったと気づいた人物だ。
塚本監督は、黒井さんが会を立ち上げた当初から交流し、取材を重ねてきた。
「終戦後、『PTSDなんていうものは日本人にはない』と決められてしまった。だから誰も言えなかったんです。呆然自失になったり、暴力的になったりしても、戦争と関係しているとは誰も思わなかった。本人も隠していたし、家族も気づかなかった。
結局、本人はPTSDだったと認められることなく亡くなり、家族も帰還した夫や父親に不信感を抱いたまま終わってしまったんです」
そして、体験者の沈黙は、戦場で何が行われたのかという記憶まで失わせてしまう。
「戦争の恐ろしさを語らないまま、お墓に入ってしまった。それをいいことに、実際には恐ろしい加害もあったのに、それをなかったことにして、また歴史を進めようとする人たちがいる。だからこそ、『なかったことにはさせないぞ』という思いで、もう一度アレンさんに蘇ってもらう必要があったんです」
日本では原爆や空襲など、戦争の被害について多くの証言が残されてきた。一方、戦場で人を殺した側の加害体験は、十分に語られてきたとは言い難いという。
「ドイツは戦後も反省を繰り返し、過ちを繰り返さないために力を尽くしてきました。でも日本は、負の側面をなるべく早くなかったことにしようとしてきたように思います」
塚本監督は、10年ほど前には「また戦争ができる国にしようとしている」という“気配”を感じていた程度だったが、今では「明らかに戦争ができる方向へと動いている」と強い危機感を抱いている。最後に、若い世代への思いを尋ねると、監督はこう語った。
「戦場というのは、殺し合いをする場所なんです。本来なら友達になれるような人同士が、内臓や脳みそを飛び散らせて殺されるか、逆に自分が相手をそういう目に遭わせるか。そういう場所なんです。そのことを、この映画を観て、実感として感じていただきたい。そのうえで、『じゃあ、自分たちはどうするのか』ということを考えてもらえたらと思います」
画像ページ >【写真あり】映画制作にあたり「戦争にヒロイズムを持ち込まない」にこだわったという塚本監督(他4枚)
