活動の間に結婚、子育てもされ。母親になって、歌手として表現になにか変化は感じましたか?
子供ができて、いままで持っていなかった母性愛という感情が生まれたことはすごく大きかったですね。歌手というより、ひとりの人間として。
それまでは、結婚してすごーく大事な人がそばにいてくれるっていうのはあっても、でも血はつながってないじゃないですか。別れたらそこでおしまいだし。どちらかというといつも誰かに守ってもらって、何か行動するときも第一に自分、だったのが、子供が生まれたらまず第一に子供。
優先順位が自分より上のものができたっていうこと、それはありえなかったわけでしょう? 自分を差し置いてもナンバー1の存在ができるってすごく大きかった。
本当の無償の愛、見返りを求めない、潤沢に愛を捧げる対象はじめてでした。
なんてかわいい、大事な存在だと子供を思えば思うほど、自分の両親も私のことをこんなに大事に育ててくれたという、両親の自分への愛を初めてすごく実感する。そういうことに始まって、人から自分に与えてくれた愛の存在をはじめて気付くんですよ。
「ああ私って、本当にいろんな人に愛されてきたんだ」という、本当の意味での感謝の心が芽生えて。
そういうことがわかると、感謝して生きるじゃないですか。
前だったらすごくよくしてもらっても「当たり前」って思っていたのが、「なんてありがたいことなんだろう」と思う。そうすると、「あんなに生意気だった子が謙虚になったかな」と思われて、ますます優しくしてもらえて。今度はこちらも優しくしたくなるし……と、すごく良い作用が生まれてきて。
そうやって人の愛を知ることができたのがとても大きくて、それをきっかけとして自分以外の人の思いっていうものをものすごく考えるようになりました。
音楽でいえば私の曲を、作ってくれた作家のかたとかスタッフさんとか、ずっと応援してくださるファンの方とか、また新しいファンの方とか、そういう人の気持ちっていうのがすごくよくわかって……。
そうすると、人間的にいろんなことがわかるようになり、歌詞も「これってこういう意味があるのか」と気付くようになったり、「こういうことが本当は言いたかったのかな」とか、いままで気付かなかった歌詞の深さがわかってきた。
同じ歌でも、35年前といまでは自分がちょっと大人になった分、表現できてるかなと思いますけどね。
いままでは、音楽しか知らないとても狭い世界で生きてきたのが、子供ができて急に社会がぶわっと広がるじゃないですか。
公園に行けば子供は誰彼構わず遊ぶから、「こんにちは」「いくつ?」と話したりとか。相手の人のことをいくつだとか男女だとか社会的にどうのこうのを関係なく、子供が飛び込んでいくところに親はついていくから、そうすると本当に、子供を通していままで知らない世界を見せてもらったり、世界が広がった。
それが全部自分にとって新鮮で、いろんなことを学べるチャンスを子供に与えてもらったことに、とても感謝していますね。
子供ができると、特に仕事をされている女性は世界が狭くなると思いがちですが……。
一瞬、子育てで外に出られない時期ってあるんです、生まれたての頃とか。
いままであんなに外に出てたのはなに? っというぐらい子供の世話で一日が過ぎて、一瞬閉塞感を感じることはあります。
でも、今思えば本当に一瞬で、公園に行くとか幼稚園に行くとか、そういうことで世界が広がっていくので、本当にすごいなぁ、すごいパワーだなと思いますね、子供っていうのは。
子育てが一段落して、活動をまたやろうというときに、喉のコンディションを整えるのは大変なんじゃないかと思ったのですが。
私の場合は声が強くなかったし、喉をハードスケジュールで痛めたことがあったので、休めるのがいちばんよかったんです。
だから、子育て期間中で仕事があんまりできなかったのは逆に声が休まってよかったです。自分にとっては酷使しなくてよかった。良い休養になったなというのがありますね。
では、特別にトレーニングをしたりとか……。
なかったですね。ただ、うちは男の子ふたりなので、朝から子供を叱りとばしたりしたのが、発声練習状態で(笑)。デビューしたての頃よりちょっと強くなったかも。
あとは、最初久しぶりにライブを始めたときは、自分で思ったようにコントロールできないなと思ったこともありましたが、馴れなのでどんどん平気になって。
いまは前より丈夫かな。上の子はもう成人していますよ。
太田さんの世界を広げてくれた息子さんには、どんな男性になってほしいですか?
自分の好きなことをみつけて、男の子なんで、なんでもいいから「これ」っていうのを見つけてまっすぐ行って欲しい。
おかあさんの影響で、歌をやったりだとか……。
うーん。音楽はふたりとも好きで、よく歌っているしピアノも弾いています。
上の子なんてコンピューターの勉強をしているので、それを使って音楽を作ったりしていますね。でも将来的なことはわからないですね。
太田裕美さんインタビューは明日に続きます。
撮影/永田理恵