―現在、都内で公開中の映画『Theダイエット!』。監督は、関口ユ(示すに右)加さん。52歳。1957年(昭和32年)5月、横浜市本牧生まれの生粋の浜っ子。子供のときから体格がよくて、いわゆる「肥満児」。シャレにならないほどのいじめの対象にもなったという。23歳でオーストラリアに渡り、映画監督としてドキュメンタリー作品を発表し、高い評価を得る。結婚、出産、離婚を経て、50歳を機に、161・にして95・あった体重を70・代まで落としたダイエット体験を、監督が自らを被写体にして映画化。『Theダイエット!』のテーマは、減量の方法論ではなく、「人はなぜ食べるのか」というデブの精神論という。チラシに“コメディ・ドキュメンタリー”と銘打たれているとおり、ユカさん自身の持ち前の陽気さで、どんなシーンにもユーモアと笑いがあると思えば、ラストには思わずホロリの感動の場面も。2009年全米ライブラリー協会賞なども受賞の話題作となっている。
自分がデブであることを意識したのは、もう子供のときから。幼稚園の年長さんの6歳のとき。初めてのおゆうぎ会で日本舞踊を披露する私をおんぶして舞台裏まで運んでくれたおばさんが、あまりの重さに「ギャー」と言ってつぶれてしまったり(笑)。いつも、「体格いいね」と言われました。
とにかく、よく食べたというのは、父と関係があって、父は昭和ヒトケタの、いわゆる飢餓世代。戦時中にたまたま横浜の米軍の基地でアルバイトをしたときに、牛乳をガブガブ飲むアメリカ人を知り、鳥の丸焼きやチーズ、ハムといった食品と出会っていて、それで終戦後、それらの食品を子供に食べさせることでアメリカと伍していければいいと考えていたようです。だから、私と父は、本当にいつも一緒で洋食を食べ歩いたり、洋画を観たりしていました。
―横浜共立学園から東京国際大学へ。国際関係論を学ぶ。そして、23歳でオーストラリアへ留学
なぜ、オーストラリアかというと、2つあります。1つは、亡くなった首相の大平正芳さんが、「環太平洋の時代」ということを言っていたのですが、そのわりにはオセアニアを研究する人が少なかったんです。だから、人の行かない所へ行ってみたいということ。もう1つは、父の弟である叔父が船乗りをしていて、宗谷について南極へも行ったという人で、その姿を見ていて、また、私自身、横浜という港町出身ということで、“いつか日本を出て行くのかな”という思いがありました。いやあ、オーストラリアに行って、ここぞ、私にふさわしい国と思いましたよ。だって、周囲はデブばかり(笑)。大きい人だと男は200・、女でも150・でしょう。私なんか、フツーだったもの(笑)。
―やがて、記録映画と取り組むようになり、1989年、『戦場の女たち』で監督デビュー。第二次世界大戦中に従軍慰安婦にさせられたパプアニューギニアの女性たちを撮ったこの映画で、メルボルン国際映画祭ドキュメンタリー部門グランプリを受賞するなど、高い評価を受けた。
留学したことで、突然、太平洋の島々を身近に感じるようになりました。そんなとき、1930年代にニューギニアの部族の研究をした文化人類学者のマーガレット・ミードを知りました。その映像を観たんですが、ある部族の葬式を取材したものでした。彼女はフレームの中に入っていき、観察し、タイプを打っていたんです。なんだ、この女はと。人の不幸を観察して、論文にして発表する? もう、激怒ですよ。でも、同時に、それを生々しく伝えていた映像については逆に、素直にすごいなと思ったんです。そのとき思ったのは、言葉にすると距離がありますが、映像だと「生」がじかに出る。すごい、これだ!と。じゃあ、何が作りたいのかと思ったとき、たまたまキャンピング旅行をして、知り合ったご夫婦がいたんですが、その旦那さんの私に対する態度がどこかおかしいんです。あとで語られたのは、「実は、私はニューギニア戦線で戦っていた」と。つまりは、かつての敵である日本人の私に対して怒りなど複雑な感情を抱いていたんです。彼にとっての、反日の感情はまだ続いていたんですね。それで、ニューギニア戦線に興味を持ちました。
―1996年、39歳で結婚。99年、42歳3カ月で超高齢出産。一人息子のアモール先人(さきと)君(9)を生む。だが、結婚生活はけっして平坦なものではなかった
ダンナは、5つ年上のネパール人でした。いわば、普通の感覚をもった夫であった彼は、私にも普通の妻を望んでいたのだと思います。とはいえ私は、映画を撮るとなると、結婚生活をしていても、ロケには出るし、カメラマンとも夜中まで撮影だ、打ち合わせだとなります。たとえ、子供がいても、理解し得ない関係になっていました。どつぼ、不幸のどん底。そりゃそうですよね。彼は普通の女性がいい人だったのに、私は自分の映画で(今度の『Theダイエット!』でも)おしりどころかアンダーヘアまで出す人だから(笑)。そんな女まで支えるようなタイプじゃなかったんです。仕事を理解してくれないダンナに対するストレスのはけ口が食べることでした。ピザです!「ハムとパイナップルのLサイズくださ~い! モッツァレラ・チーズで!」。1週間、毎晩、宅配ピザを注文して、ダンナと子供を寝かしつけたあとに食べ続けたり。もう、やめられませんでした。ダンナに気付かれないように、宅配ピザ屋のお兄さんが玄関をピンポンする前に、庭まで出て行って受け取っていましたから、ハハハ。
『THEダイエット!』
劇場・アップリンクX
日時:7/25(土)~8/7(金) 11:30/16:30/17:50
8/8(土)~8/21(金) 11:30/16:30
8/22(土)~8/28(金) 11:30