映画『ギリギリの女たち』渡辺真起子、中村優子、藤真美穂の女優3名が極限の中で土壇場を演じる
28日より公開される映画『ギリギリの女たち』は、『愛の予感』『春との旅』など、国際的な評価の高い小林政広監督の最新作。
冒頭35分間をワンカット、全編をわずか28カットという、実験的かつ大胆な手法で構成された意欲作だ。
昨年3月11日に起きた東日本大震災の被災地となった宮城県気仙沼唐桑町に居宅を持つ小林監督が、被災地の復興を願い、2006年に書かれた脚本を再構築し、昨年8月に唐桑町で撮影された。
瓦礫の山を目の当たりにしながら、渡辺真起子、中村優子、藤真美穂の女優3名が極限の中で土壇場を演じた。その3名の女優に、撮影の様子や作品について語ってもらった。
映画『ギリギリの女たち』
ある三姉妹の物語――。彼女たちは精神的にも肉体的にも、ギリギリの状態。震災をきっかけに再開を果たすが、家族との絆を見失い、傷つけ合ってしまう。不器
用に生きる彼女たちにとって、幸せとは? 愛とは? 本作は、それでも、女たちはたくましく強いという、揺るぎない真実を写しだす。泣いて、笑って、喧嘩
したら、再び立ち上がれる。これは今を強く生きている女たちの“愛の叫び”だ。
脚本・監督:小林政広
出演:渡辺真起子、中村優子、藤真美穂
(C)2011 モンキータウンプロダクション/映画「ギリギリの女たち」製作委員会
2012年7月28日(土)よりユーロスペース、シネ・リーヴル梅田他、全国順次公開
オールイン エンタテインメント、Grist
(公式サイト)www.girigiri-woman.com
(イントロダクション)
ある三姉妹の物語――。彼女たちは精神的にも肉体的にも、ギリギリの状態。震災をきっかけに再開を果たすが、家族との絆を見失い、傷つけ合ってしまう。不器用に生きる彼女たちにとって、幸せとは? 愛とは? 本作は、それでも、女たちはたくましく強いという、揺るぎない真実を写しだす。泣いて、笑って、喧嘩したら、再び立ち上がれる。これは今を強く生きている女たちの“愛の叫び”だ。
わたなべ・まきこ★68年9月14日生まれ。東京都出身。86年よりモデルを始める。88年『バカヤロー!私、怒ってます』で映画デビュー。おもな代表作に映画『ヒミズ』、『愛の予感』などある。小林監督作品には本作が4度目となる出演となる。
なかむら・ゆうこ★75年1月7日生まれ。福井県出身。01年公開の映画『火垂』でストリッパー役を演じ、話題を呼ぶ。おもな代表作に映画『ストロベリーショートケイクス』、NHK連続テレビ小説『カーネーション』などがある。
ふじま・みほ★78年11月29日生まれ。埼玉県出身。大学時代よりモデルとして活動し02年『リフト』で映画デビュー。おもな代表作に映画『代行のススメ』、『TSUYAKO』などがある。12年公開予定『東京の光』『猫と電車』などがある。
左から3女役の藤真美穂、長女役・渡辺真起子、二女役・中村優子
――完成作をご覧になっての感想を、皆さん、お聞かせください
渡辺真起子(以下:渡辺)「自分の出ている作品って、自分の演技が気になってなかなか客観的に観られないんですよ。今でもあまり冷静に見られないんですけど、すったもんだあり、追い詰められても、どうにか乗り越えていったんじゃないかと思います」
中村優子(以下:中村)「完成直後に観たときは、気持ちがありすぎて、客観的に観られなかったんですけども、自分の台詞の通りに子供ができまして<取材数日前に妊娠7か月であることが発表された>、今、この(妊娠している)状態になって作品をふり返ると、自分の中にある生きる力とか、言葉では追いつかない『生』の衝動、力強さを感じます」
藤真美穂(以下:藤真)「お2人と同じで冷静に観られていないという感じです。多分、何万回観ても、客観的に作品を観られることはできないんでしょうけど、とにかく、女性に観てもらいたいと直感で思いました。登場人物の誰にも非はない。3人とも人生がうまくいっていないけども、今まで方法はどうであれ、頑張ってきた自分がいるんだから、それを認めて、そこからまた頑張っていけばいい、という思いが、登場人物にはあります」
――女性に観てもらいたいと思われた理由はどういうところにあるんでしょうか?
藤真「この作品は3姉妹の話なんですが、3人の中の誰かに自分を重ねることができるかなと思いまして。私は、自分が演じた末っ子の厳しい境遇を、すんなりと受け入れ、演じることができました。ですから、出ている誰かに自分を重ねあわせることができるかと思います」
――冒頭のシーンは、35分ワンカットということで、観ているこちら側も緊迫感がありました(笑)。やはり一回でOKということではならなかったですよね!?
渡辺「そうですね。一発でOKにはなりませんでした。大変でした(笑)」
――しばらく会っていない3人が震災を機に実家で再会するわけですが、3人とも、ひじょうに強い個性の女性たちでした。演じる上で何か心がけていたことはありますか?
渡辺「よく役作りに関して聞かれるんですけど、難しいことは特にしていません。素直に台本を読んでいくとその役が見えてくると思っていて。今回も、監督にいろいろ質問して、その通りに演じていた部分があります。あとは、2人に嫌われないようにしようって思っていました(笑)」
中村・藤真「嫌われないって、たとえばどんな風に?」
渡辺「2人が台本の予習や復習をしているときに、邪魔しないようにしようとか、自分の予習や復習につきあってもらうときは、これ以上お願いしたら嫌われないかなと思いながらです(笑)」
――昨年(2011年)の夏に、被災地の気仙沼で撮影されたそうですが、撮影中はどちらに宿泊されていたんでしょうか?
渡辺「ユースホステルです。避難所としても使用されていたので、被災者の方たちに迷惑が掛からないよう、私たちは母屋のほうに寝泊まりをしました。8月のお盆時期で夜中に大きなカブトムシが飛んできて、藤真さんがすごく驚いていました」
藤真「朝の4時に大騒ぎ。皆を起こしちゃいけないと思いつつ、ゴキブリかと勘違いしちゃって」
――話を戻しまして、中村さんはどのように次女の役を演じられましたか?
中村「今回は故郷に吸い寄せられるように戻っていくという役なので、過去の他愛のない記憶を役になって辿っていって、実際にその土地に立ったら、イメージしてつくった記憶と場所が結びついて、そこから自然と役に入り、演じることができまました。あとは、姉と妹を目の当たりにしたら、自然といろんな感情が生まれてきて」
――藤真さんはどのようにして3女を演じましたか?
藤真「被災地に知り合いがいたので、最初に気仙沼で映画の撮影をすると伝えたときに言われたのは『とにかくこの地へ来て、この地で映画を撮ってちょうだい』っていうことでした。それが第一声だったので、その想いを届けようと思いました。台本を読んで、役と作品に真摯に向き合って、あとは現場で自然と役に入っていくことができました」
――演じられた役とご自身との共通点は何かありますか?
渡辺「長女ということでしょうかね」
中村「演じた通り、実際に、渡辺さんが長女、私が次女、藤真さんが3女なんですよ。まったくの偶然でした。監督は知らずに決めたそうなんですけど」
渡辺「そういうこともあり、家族と自分の立場というのが理解しやすかったです」
――被災地・気仙沼での撮影でしたけど、撮影前にどちらか被災地へ行かれたことはありましたか?
渡辺「私は石巻へボランティアで行きました。小さい浜のほうへ」
中村・藤真「私は初めてです」
――8月の撮影ということで、まだ、気仙沼にはかなり瓦礫も残っていたんではないでしょうか
渡辺「そうですね。震災から5か月経っているのに、気仙沼はまだまだという印象でした。かなりひどい状態で残っていましたし。今はだいぶきれいになったようですが」
――被災地に降り立って、やはり、演じる気持ちもだいぶ変わりましたか?
渡辺「芝居のやりやすさということを、考える余地もありませんでした。ただ、何かできることはないかなという個人的な気持ちはありました。演じるときは何かを消化しないといけないと思うんですけど、でも、今でも体にまとわりつくというか、消化しきれないものがあります」
――東京から被災地へ向かうと、途中でどんどん景色が変わってくるので、現在ではそんなことはあまり感じないかもしれませんけど、去年の8月ならば、その、景色の変化に気持ちがついていけないということはありますよね。あまりにもあらゆるものが失くなっていて。
渡辺「そうなんです。東京から被災地へ向かう、あの風景の変化にショックを受けますよね。でも、それが、西のほうへ行くとまた被災地とは違う時間が流れている。最初、ボランティアへ石巻に行って東京に帰ってきたときに、世界って儚くて危ういんだなと思いました。全部、建物が簡単になぎ倒されてしまう」
――中村さんと藤間さんは、被災地・気仙沼に入られての感想はいかがでしたか?
中村「役や作品とはまったく別次元で、あの光景を目の当たりにしてしまうと、言葉にならなかったですね。何もかもが失くなり、広大な空き地に来てしまったという感じでした。ただ、夏だったので、ものすごい雑草が生えていた。それがずっと心に残っています」
藤真「撮影中に宿泊したユースホステルにいた被災地の方々が、すごく明るかったんです。その明るさには、いろんな意味合いがあると思うんですけど、ここであの出来事が起きたんだよな、と、思うと、不思議な感じがしました。空いた時間に気仙沼の隣の岩手県の陸前高田にも連れて行ってもらったんですけど、嗚咽が止まりませんでした。あの風景は忘れられません。言葉で言い表すことはできません」
――撮影中、大変だったことは何かありましたか?
渡辺「地元の方に協力をいただいたので、そういう不便はまったくありませんでした」
中村「すごくよくしていただきました。お世話になったユースのお婆さまが孫娘のように面倒を見てくださって、どんなに朝が早い撮影でも、出て行くときは玄関口に立って『行ってらっしゃい』って見送ってくださって」
藤真「そうそう。それで撮影が終わると『終わったの?』って出てきてくれて」
――3人が思う、この作品の魅力をお聞かせください。
渡辺「ダメでもいいじゃん、また生きていこうよっていう、そういう強さみたいなものが見える作品だと思います。家族の物語としてすごく不恰好ではありますが、ぶつかりあえる相手がいるということは、意外に生きる力になるんじゃないかと思いました」
中村「まずは女の持っている強靭な生命力といいますか(笑)。言葉では追いつかない、生きることへの欲望の強さとかが、伝わる映画だと思います。スクリーンを通してそれを体感してもらえたら嬉しいです」
藤真「魅力というか、なんとかなるんですよ、人生は。越えられない壁はないというか。人と触れあってみると、事は前へ進むし、どんなことが起きてもお腹は空くし、明日は来るし、生きていくしかない。それが全面に出ている作品だと思いますね」
――3姉妹の生命力の強さが、とても感じられますよね。
渡辺「そうですね。この3人の不恰好な強さっていうのが、私は、とても愛おしい。上手に生きることも大事かもしれないけど、もがいて生きていくのも案外悪くないじゃない? と、思える気がしますね」
――では最後に作品のPRをどなたかにお願いしたいしたいんですけど……。
中村・藤真「やはりここは長女じゃない?」
――では、リクエストもあったので、長女の渡辺さん、PRをお願いします。
渡辺「そうだなぁ……。粘り勝ちです人生は! どんなにかっこ悪くても、生きることをそんなに簡単に諦めちゃいけない! そういう映画です。こういう感じでいいですか?(笑)」