おじさんたちの弦楽四重奏団「ラザーラ・カルテット」。ホワイトハウスでの演奏会直前、ひとりの団員が解雇され、その代役として、オーディションで若い女性が選ばれた。晴れの舞台のために、難曲であるベートーベンの『作品131』を選曲し、演奏会に向けてリハーサルを始めるラザーラ・カルテットだが……。
メンバーそれぞれの心中に渦巻くエゴや欲、嫉妬や裏切りをコミカルに描く大人のコメディ舞台が『OPUS/作品』だ。
日本初上演となるこの作品で、メンバーのひとり、チェリストのカールを演じるのが、近藤芳正。登場人物はそれぞれチャーミングだが、みな事情を抱えている。カールは、じつは大病を患っていて、物語が進むにつれ、その秘密が明らかになっていく。
「翻訳ものですから、笑いのツボが日本人とは違うんでしょうね。でも、それは考えずに演じています。思いっきり笑わせるアメリカの喜劇作家、ニール・サイモンの脚本とは違って、クスッと笑う感じかな。でも、人間関係が崩れていくところなんかは、会社や家庭、恋愛の中でも思い当たるフシがあるでしょうから、実生活に響くところもありそうですよ」
『作品131』は、ベートーベンの晩年の作品。『第九』などに比べれば派手さはないが、名曲と呼ばれている。
「演出家からは『作品全体がひとつの長い曲になるように』と言われています。自分が奏でる音だけで曲が成立するのではなくて、それぞれが出す音が揃そろって、初めてひとつの曲が完成するわけですよね」
人生同様、多くの人と絡み合い、さまざまな出来事に巻き込まれながら、ラストに向かっていくというわけだ。ところで、チェリストを演じる彼自身の、楽器の経験は?
「中学時代、叔父のギターを借りて練習したんですけど、ぜんぜん弾けなくて。あとで調べたら、それはクラシックギターで、コードを弾くものではないうえ、僕には大きすぎたんですね。これが、僕の楽器にまつわる第一の挫折」
ギターをあきらめ今度はドラムにトライしたが、リズムをうまく取れず、第二の挫折。ついに〝楽器コンプレックス”になってしまったという。
「貸しスタジオで、仲間と練習したこともあるんですよ。でも、この舞台じゃないけど、2日で仲間割れしてしまいました(笑)」
楽器は苦手だったが、美術、とくに絵画は得意だったそう。
「サーカスを見に連れて行ってもらったときの思い出を描いた絵が、コンテストで入賞したんです。団員が空中ブランコに勢いよく飛びつく瞬間の絵でした。それがねぇ……展覧会場に見に行ったら、上下を逆に展示されてたんですよ(笑)。子供心にすごくショックでしたけど、それで高く評価されたんなら、まあ、いいのかな、と」
一方、演技に目覚めたのは学芸会で『夕鶴』の「与ひょう」役を演じたとき。拍手喝采を浴び、興味を持ったのをきっかけに、地元・名古屋の児童劇団に参加し、『中学生日記』(NHK)などに出演した。
「当時、学校の先生がサイン帳に『誰にでも宝はあります。それを早く見つけてくださいね』という言葉を書いてくれて。『この道が僕の宝』と思い込みました」
以来、一心不乱に演劇の道を歩み、いまや喜劇作品には欠かせない顔となった近藤。今回の舞台でも、客席を沸かせてくれるに違いない。
こんどう・よしまさ
’61年8月13日生まれ、愛知県出身。名古屋の児童劇団を経て、劇団青年座の研究所へ。その後、劇団七曜日に入団。’01年より演劇ユニット「劇団♬ダンダンブエノ」、’09年よりソロユニット「バンダラコンチャ」のプロデュースを開始。出演映画『許されざる者』(李相日監督)が9月13 日より、『清須会議(』三谷幸喜監督)が11月9日より、それぞれ公開される。
舞台『OPUS/作品』
9月10日(火)〜29日(日)、東京・新国立劇場小劇場にて。10月5日(土)〜6日(日)、茨城・水戸芸術館にて。公式サイトはhttp: //www.atre.jp/13opus/index.php