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「’97年に夫を亡くした1年後に、この作品の翻訳・出版権を獲得できた決め手は、私が送った手紙が『情熱的だったから』だと原作者のJ・K・ローリングから聞きました。でもその情熱は、出版業を愛し、志半ばで早世した夫の魂を受け継いだものでした」

 

こう振り返るのは、世界的ベストセラーで日本語版も2,400万部以上を売り上げている『ハリー・ポッター』シリーズの翻訳者で静山社会長の松岡佑子さん(73)。4歳上の夫・幸雄さんとは大学時代に交際が始まった。

 

「彼は作家志望でしたが、すぐに稼げるまでになるとは思えなかった。私は大学院進学をあきらめ“生活のために”通訳の仕事に就いたんです」

 

後に夫は一端、ペンをおき、’79年に自分で小さな会社を立ち上げた。だが18年後にがんに倒れ、後には負債だけが残った。54歳で会社を引き継いだ松岡さんは、ある日、友人に薦められたハリー・ポッターの原作本を開くと瞬く間に夢中に。すぐさま原作者“熱い手紙”を書いたのだった。

 

「幸せを失って、素のままでスクッと立ったときに、人間には不思議な力が出る。夫を亡くした後だからこそ、ハリーの作品と出合うことができました。でもその“人生のチャンス”は、努力もなしに待っているだけでは決してやってこないものなのです」

 

思い出すのは通訳の仕事に就いたころのことだと続ける。

 

「人前に出るのが苦手な私は通訳に向いていなかった。でも採用されたからにはと、予習、復習、関連知識の習得など睡眠時間を削って勉強を重ねました。その下積みが後につながったんだと思います」

 

50代で成功を収めた松岡さんは、友人だったオーストラリア出身のボブさんと63歳で結婚。現在はスイスで暮らすが、70代になって“新しい目標”を見つけたという。

 

「ボブも私もブルゴーニュのワインが大好き。そこで日本の方にも少しでも安くおいしいものを楽しんでいただきたいと、欧州から輸出を始めました。コストを抑えるために『フェニックス・ワイン・クラブ』のHPで限定販売しています。全身全霊、私たちが一つひとつ試飲して選んだ自信のボトル。ぜひお試しくださいね」

 

そう目を輝かせ、最後にこんなアドバイスをくれた。

 

「いま仕事がつまらないと思っている人でも、続けるべきです。与えられた仕事にはつねに真剣に向き合うことが重要。地に足をつけて、目を天に向けている人にだけ、チャンスの天使が舞い降りる。それはいくつになっても変わらないことだと信じています」

 

松岡さんの仕事に対するモットーは、まさに人生90年時代にぴったりの“魔法の言葉”かもしれない。

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