「私が北海道の浦河町に別荘を建てたのが’75年で、それから10年以上たったころでした。あの当時は本当に大変で……」
そう語るのは、女丈夫として知られる人気作家・佐藤愛子さん(93)。最近では『九十歳。何がめでたい』(小学館)が56万部を突破、『それでもこの世は悪くなかった』(文春新書)も発売早々ベストセラーになっている。
’69年に『戦いすんで日が暮れて』で直木賞を受賞して以来、ずっと文壇の第一線で活躍し続けている彼女を怪奇現象が襲ったのは’75年のことだった。佐藤さんと、協力して苦難を乗り越えた名古屋市内でつるた小児科を開業していた鶴田光敏医師(62)が、当時のことを語り合ってくれました。
佐藤「別荘に滞在中、誰もいないはずなのに屋根の上をノッシノッシと人が歩く音がしたり、シーツや段ボール箱がなくなってしまったり。後でわかったのですが、私が別荘を建てた土地のあたりで昔、大勢のアイヌの人たちが虐殺されていたんです。でも、当時は心霊現象などいっさい信じていませんでしたから、何が起こっているのかわからなくて途方にくれるばかりでした」
鶴田「美輪明宏さんに相談されましたよね」
佐藤「美輪さんの霊視力は本当にすごかったです。知り合いに勧められてお電話したら、『あなた、とんでもないところに家を建てたわね』と、言われて……」
心霊現象は、その後ますますエスカレートしていき、佐藤さんが東京に帰ってきても、発生するようになった。一連の現象が解決へと向かうきっかけになったのが、鶴田医師との出会いだった。
鶴田「佐藤先生の『こんなふうに死にたい』(新潮文庫)を読んで、先生が心霊現象に苦しめられていることを知りました。私自身も17歳のころに父を亡くしてから一時期、人や自分のオーラが見えたりなどの霊的体験があり、心霊現象には強い興味がありました。それで自著『飛騨の超人』にファンレターを添えてお送りしたところ、すぐにお返事があったので驚きました」
佐藤「鶴田先生に心霊現象を相談するようになって、急速に親しくなったのです。実はそれには理由があったんですよね」
鶴田「美輪明宏さんの霊視によれば、私たちには前世からの因縁があるそうで、こんなビジョンが見えたそうです。前世で私は、落ち武者となって集落をさまよい、一軒の家にたどりついた。そこで白髪の老婦人から一膳のおかゆを恵んでいただいた」
佐藤「その老婦人が前世の私なのだそうです。落ち武者は、おかゆを食べた後、切腹して果てましたが、鶴田先生には生まれたときから、おなかに傷痕があるのよね」
鶴田「私の母親も、ずっと不思議に思っていたそうです。でも、美輪さんのお話を聞いて納得しました。佐藤先生と出会ってから、日本有数の霊能者と次々に出会うことができたのですが、まさに運命に導かれているようでした」
佐藤「私にとって鶴田先生は心霊世界の道案内人でした。20年もの間、本当に大変な思いをしましたが、振り返ってみると、すべてが“天上界のはからい”だったような気がします」
鶴田「私もそう思います。たとえば、最終的に現象を鎮めてくださったのは神道家の相曽誠治先生です。でも私が努力したからお目にかかれたわけではありませんでした。東京から名古屋に帰る新幹線で偶然隣り合わせて、佐藤先生の件を相談させていただいたのです。不思議な出会いが続いたのも、きっと天上界のはからいがあったのでしょう」
佐藤「私が北海道の何もない不便な山に、わざわざ苦労して別荘を建てたのも、実はアイヌたちの霊を鎮めるという使命があったからなんですね。当時は、自分がおっちょこちょいだからだと思っていたのですが(笑)」
鶴田「実はこの対談の依頼を受けたとき、編集部から『佐藤先生が元気な理由を、医師として解説してください』と、言われたのですが、非常に困っています(笑)。佐藤先生は、健康法には全然関心がありませんから……」
佐藤「何を食べたほうがいいとか、食べてはいけないとか、まったく無視しています。一昨日は、朝に牛乳を1本飲みました。パンを食べようと思ったのですが、午後に歯科医の予約を入れていたんです。パンを食べると、また歯を磨かなくてはならないのが面倒くさくて、そのまま出かけました。受診後に、万年筆を買うために銀座三越に行って、とりあえず夕飯のお総菜とかを選んでいたら、空腹でフラフラになって……」
鶴田「佐藤先生、それは脱水と低血糖の症状ですよ!」
佐藤「どこの喫茶店もいっぱいで、ついに倒れそうになったので、トイレで水を飲んだんです(笑)」
鶴田「それで具合はよくなりましたか?」
佐藤「回復しました。そこが素晴らしいでしょう?そんなことで自信がつくの。タクシー乗り場が遠かったので、地下鉄に乗って帰宅したら夕方5時でしたね」
鶴田「佐藤先生は本当に医者泣かせですよ(笑)」
佐藤「でも、そのせいで肝心の万年筆を買い忘れてしまいました」
鶴田「では、佐藤先生の元気の秘訣は“ありのままに生きているから”ということで……」
佐藤「そういうことで、いいんじゃないですか(笑)」