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「現実にいる方の人生を生きさせてもらえるという、これまでにない機会に巡りあえた喜び半面、今まで一度も感じたことのないプレッシャーを感じました」

 

そう語るのは、俳優の升毅(61)。若年性アルツハイマーの妻と、自らもがんを克服しながら、12年間にわたり妻の介護を続けた夫との夫婦愛をユーモアに包んだ語り口で描く、公開中の映画『八重子のハミング』。陽信孝さんの手記に基づく本作で、陽さんをモデルにした夫の石崎誠吾を演じる升は、意外にもこれが映画初主演となる。

 

「撮影前にテレビ放送された陽さんご夫妻のドキュメンタリーを渡されて、見るか迷った末に見たらやっぱり、うわぁ、見ちゃった!と後悔して(苦笑)。現実に近づけるか悩んだんですけど、佐々部監督からも『升さんなりでいいですよ』と言っていただいて、そこからは脚本を読んで感じたことに立ち返って、ようやく一歩を踏み出せました。それでも、どこかにその映像が残っていて、空気感は反映されたかもしれません」

 

また、28年ぶりに女優復帰を果たした高橋洋子演じる、妻・八重子との介護シーンは、体当たりの競演となった。

 

「たとえば、八重子さんはトイレに連れていかれるのが好きじゃなかった。脚本では嫌がる彼女を連れていくことだけが決まっていて、ちゃんとさせるまでは終わらない。そういう流れを僕と洋子さんの自然な形でやらせていただけたので、役者としてはわくわくする一方、現実の介護もそうだったんだろうと、想像しながらやっていました」

 

この役と出会って、自分が同じ状況に置かれた場合のことも考えたそう。

 

「劇中で石崎が『優しさには限界がない』と言うんですが、そうでありたいと思っても、実際にはどこまでできるのだろうと、今も問いかけ中です」

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