「監督いわく、人に頼ってぶら下がり系だけど、女の強かさも持っている女性だと。髪も脱色して外見から内面まで、意思が強そうな田中麗奈要素をとにかくなくしてって(笑)。私にはないカラーを要求されたことが、役者としてはとてもうれしかったです」
そう話すのは、公開中の映画『幼な子われらに生まれ』で夫に依存する主婦を演じる田中麗奈(36)。子連れ再婚の夫婦が、2人の間に子どもを授かったことで起こる葛藤を描く本作。田中は、2人の娘を連れて夫の信(浅野忠信)と再婚した妻の奈苗を演じる。義理の娘との気まずい関係から妻の出産を喜べない信に対して、産む気満々の奈苗。空気は読めないが、ぎくしゃくした家族をつなぐキーパーソンでもある。
ドキュメンタリー出身の三島有紀子監督からは、脚本にないせりふや芝居が常に要求された。
「奈苗が話しかけることで、家族の時間が回りだしていく。うざく思われても、それが彼女の役割なんです。だから、イルカの写真集を眺めている娘に『あ、水族館行ったよね』なんて、家族の共通の思い出を探して話し始めたり……。考えることは多かったけど楽しかったです」
信役の浅野忠信と元夫役の宮藤官九郎と共演した感想を彼女はこう語る。
「浅野さんは、一緒にやっていても、それ脚本にあったっけ? と、一瞬わからなくなるほど、せりふの順番をバラしたり、並びのいい言葉より自然であることを体現している方です。宮藤さんはDV夫の役ですけど、そこに哀愁や後悔が垣間見えてすごいなぁと」
映画は夫の信視点で進んでいくが、監督は最後に奈苗のあるシーンを追加したという。
「あそこで奈苗の葛藤やストレスが解放される。演じるうえでも支えになったし、妻側のメッセージにもなる。主婦といえども、頼ってるだけじゃないんだよ、本当はねって」
奈苗の空気の読まなさは、妻としての強かさなのだろう。結婚後、この役と出合えたことは、田中にとって大きな節目となったようである。
「自分自身が家族を持ったので、家族がある温度感みたいなものを、今、体に浸透させてる感じなのかな」
女優・田中麗奈の第2章の幕開きにふさわしい作品だ。