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昨年6月に発売され、大ヒットを記録した『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)。その第2弾『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら青のりMAX』(宝島社)も絶好調で、話題となっている。

 

今回は第2弾の発売を記念して、著者の神田桂一氏と菊池良氏に「もし坂本龍一が“もしそば”著者を取材したら」という設定で対談してもらった。

 

 

坂本 売れているみたいだね、この本。何万部いったんだっけ? 

 

神田 累計で15万部です。いやあ、文豪とカップ焼きそばにここまで需要があったとは。 

 

菊池 予想以上に売れましたね。 

 

坂本 神田くんはこれが1冊目で、菊池くんは2冊目。 

 

菊池 そうですね。3年前に『世界一即戦力な男』(フォレスト出版)という本を出しています。

 

坂本 僕の初めてのアルバム『千のナイフ』は、当初の実売が200枚だったわけ。で、その次に出したYMO『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が120万枚。この差には驚いたな。 

 

菊池 そこまで売れたわけじゃないですけど……。 

 

坂本 僕はYMOをやる以前はわりかし匿名(アノニマス)な存在だったわけね。非常に個人的な存在でさ。それがコマーシャリズムに巻き込まれて、急激に顔と名前を知られるようになると、まず身体にガタがきたの。外出するのも嫌になって。1年くらい慣れなかったな。君たちにはそういう変化はなかったの? 

 

菊池 そこまでの人気は……。 

 

神田 僕はいつも利用している名刺店のおばちゃんが新聞広告をスクラップしていて。「見たよ!」って言われましたね。ぜんぜん本を出したって言ってなかったんですけど。 

 

■文体とは言語という「制度」を越えた存在

 

坂本 たくさんの文豪を文体模写してみて、わかったことはあった? 

 

菊池 これはけっこう僕の中ではすごい発見だったんですけど、似ている文体が1つもないんですね。 

 

坂本 どれも独自の文体を確立していた? 

 

神田 そうです。そこはわりに、素直にすごいと思いましたね。 

 

坂本 それは面白いな。というのも言語っていうのは非常に強固な制度だからさ、言ってみれば有限的な文字の組み合わせなわけじゃない?猿がタイプライターを打ち続けたらシェイクスピアが出来上がるっていう話もあるし。220人の文豪を模写してみて、1つも重複がないというのは興味深い発見だと思う。僕らの世代は「作者の死」から出発しているわけだしさ。 

 

神田 逆に言うと、独自の文体を作れた人が作家として生き残るんだと思います。 

 

坂本 僕の父親は出版社の編集者をやっていて。家にもいろんな作家が来るわけ。小田実や高橋和巳が朝まで飲んでワーワー言っていたりするの。埴谷雄高なんかが電話してきてさ。彼らを見ていると確かに自分の語り方というのを持っていた気がする。 

 

■ベストセラー後に生まれるもの

 

坂本 もう聞かれ飽きたと思うけどさ、今後はどうしたいの? 

 

菊池 僕はもっと「書き方」というのを研究したいと思っています。今、日本語の書き方がとても画一的になってきているんじゃないか、というのを感じます。それを壊したい。それこそデリダの「脱構築」かもしれませんけど。 

 

坂本 今のをフォローすると、デリダは前期、中期、後期とわけることができて、前期は「脱構築」という自分の理論をわりかし論理的に書いていたわけね。でも、自分の理論を自分が実践していないのはおかしいだろうと、中期は自分の理論を実践した文章を書いた。そしたら、非常に難解な文章ができあがった。後期になると今度は講演が中心になるんだけど。僕ができる忠告としては、よくわからない文章にはならないように、ということかな(笑)。 

 

菊池 もっと一瞬で伝わって、楽しい書き方があるんじゃないか。何かヒントはないかと思って、江戸時代の滑稽本を読んだりしていますね。 

 

坂本 確かにもっと自由な、マニュアル的じゃないやり方というのはあると思う。神田くんは? 

 

神田 僕はノンフィクションの単著を出します。“もしそば”でくだらないものを書いたので、今度はわりに真面目なものを。硬軟どちらもいけるというのを示したいですね。 

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