「初対面の印象は鋭くて、温度が低い。強い、堅い。それなのに話すと温かい。引力のように、エネルギーを吸い取られるような…男が男に惚れる、まさにそんな感じでした」
昨夏、大杉漣さん(享年66)と初めて顔合わせしたときのことをそう振り返るのは、いま話題の新進俳優・玉置玲央(33)。玉置は、大杉さんにとって最後の主演作で、初めてプロデュースも務めた公開中の映画『教誨師』で映画デビュー。大量殺人者の若者・高宮役を演じている。
「教誨師」とは受刑者に対して道徳心の育成、心の救済につとめ、彼らが改心できるように導く聖職者のこと。プロテスタントの牧師・佐伯役の大杉さんは「教誨師」として高宮ら一癖も二癖もある計6人の死刑囚と対峙する。大杉さんの妻で所属事務所『ZACCO』の代表取締役社長だった弘美さんが玉置の出演舞台を見て、大杉さんに推薦。今作の重要な難役に抜擢された。
「現場入りするまでは自分なりに準備して高宮という役を考えていたんですが、なかなか掴めなくて。けっこうな数のリハーサルをしても悩んでいたんです。本番直前、前室で漣さんと台本の読み合わせしていたらボソッと『いろいろ考えなくても、心底からやりとりすればそれがお芝居になって役になるから、大丈夫だよ』って。高宮という役柄、映画の初出演……いろいろ気負っていた僕が、その言葉ですごく楽になったんです。自分のやってきたことが、間違いじゃなかったんだ。繰り返せば、いいお芝居ができる。自分の役者人生、キャリアの上でも、漣さんのこの言葉を指針に今後もやっていける、そう思ったんです。今回の撮影では最後まで好きにやらせてくださいました」
映画の撮影は1週間程度で終わったという。
「クランクアップした日、僕は撮影がなかったので遊びに行ったんです。漣さんはその帰り、車で送ってくれて『このメンバーでいろいろ考えているので、また、どっかでやりましょう』と言ってくださったんです。本当に嬉しかったですね」
(C)「教誨師」members
今年1月、大杉さんは玉置出演の舞台『秘密の花園』を観に来たという。4月、大杉さんは新国立劇場で舞台に立つ予定だった。玉置も同時期、新国立劇場で別の舞台に出ていることから大杉さんからは「また、そのとき会えるな。帰り、ウチでメシ食べていけばいい」と言われていたという。再会の約束は、残念ながら叶わなかった――。
「漣さんは『この人になら一生ついていきたい』と思う役者さんでした。僕の撮影の最終日に、漣さんから新品の手鏡をいただいたんです。昔からずっと楽屋や前室では手鏡を使っていたみたいで。漣さんのお世話になった方が作られたお手製の手鏡で、“漣”って判子も入っていたんです。『僕がこれを渡したのは、光石くんと玲央くんだけだ』って。これは僕の宝物。今も持ち歩いて、舞台のときには必ず使っているんです」
そう言って天を仰ぐ玉置。最後に本誌にこんなメッセ―ジを送ってくれた。
「この映画はなぜ、生きるのかがテーマです。ご縁があって僕は大杉さんと共演できました。ぜひ、読者の方にも映画をご覧になっていただいて、ご縁をつないでいけたらと思っています」
【 玉置玲央(Tamaoki Reo)】
1985年、東京都出身。劇団柿喰う客のメンバーとして活躍。高い身体能力を武器に、多数の舞台に出演。近年は映像にも活動の場を広げ、大河ドラマ『真田丸』(16年、NHK総合)『都庁爆破!』(18年、TBS系)などに出演。本作が映画初出演。
『教誨師』は有楽町スバル座ほか全国で公開中