(撮影:御堂義乘) 画像を見る

毎年恒例、年末年始の人気企画、麗人・美輪明宏さん(83)による愛のメッセージ。今回のテーマは「新時代を生き抜く知恵」。来年5月の改元で、日本は新時代へと突入する。「昭和」と「平成」という激動の時代を強く生き抜かれた美輪さんが語る、希望の持てる未来とは――。

 

私が常々言っていることですが、ものにはプラスとマイナス、陰と陽、“正負の法則”というものがあります。古いものにも、新しいものにも両面があります。

 

何かを得れば何かを失う。何かを失えば何かを得られる。これは真理です。

 

これからの時代で危惧しているのは、人間がデジタルの方向ばかりに突き進むことです。

 

誰もが携帯やスマホを持つ時代の中で、知らず知らずのうちに多くの人たちが、SNSを中心とした生活になってきています。

 

次から次へと新しい情報が飛び交い、自分の中で処理しきれない。でもつながっていないと不安になる……。

 

今、そういう人たちが蔓延しているのではないでしょうか。そうなると、情緒不安定になる人たちが増える危険性がある。

 

デジタルに使われる人じゃダメ。主従関係が、デジタルが王様で、人間のほうが従うようになってはいけない。

 

あくまでも人間が主でなければいけないのです。今は力関係が逆転しかかっています。

 

とくにAIの人工知能が人間の代わりにいろんなことをやるようになりました。これからもっとAIが進歩したら、力関係の逆転がもっと早く進むかもしれません。

 

ただし、人間の皮膚、ため息、まなざし、そして手触りの感覚など、AIが人間に代わってできないものもあります。

 

“介護にロボットを!” と、声高におっしゃる人もいますが、ロボットの声は機械で作った音。そんな声でずっとしゃべられてごらんなさい、優しさが伝わると思いますか。

 

介護でそっと手と手が触れ合ったときに、温かな脈拍が伝わったり、何も言わなくても目と目が合ったら優しいまなざしを感じたりできるのは人間だけです。

 

かすかにまばたきをしたとか、ふっと息がかかるとか、そういう皮膚感覚は、どれだけ科学が進んでもAIには無理です。

 

人間の何げない動きから生まれるつながりこそが、生きている証しでもあるのです。

 

恐ろしいのは、世の中がバーチャルとリアルでごちゃ混ぜになっていること。いずれ人間は、どこかで危険を感じ、本能的にデジタルと正反対のアナログに回避すると思っています。実際、最近はアナログレコードがどんどん売れるような動きもあります。

 

人間はどこかでマズイと感じたら、再び正反対なものにまた戻ろうとする、そういう本能が働くと思います。“アナログの力”が必要になるんです。

 

若い人にもそんな力を持っている人が、たくさんいます。体操の内村航平や白井健三とかね。あれこそアナログでしょ。

 

それから藤井聡太七段。あれも機械じゃないんですよ。人間の頭脳と情緒とか人格とか、そういったものの集大成が人の心を動かしている。

 

たどたどしい日本語で一生懸命コミュニケーションをとろうとする、女子テニスの大坂なおみにも人間的な魅力を感じます。

 

クイズ番組で東大生たちがいろんな知識を披露しているじゃないですか。あれもアナログですよね。デジタルと対等に向かい合ってるわけだから。

 

私は、進化を続けるデジタル時代を否定しているわけではありません。

 

「温故知新」――古きを学びて新しきを知る。そういう知識をつけることで、今の自分の立ち位置、置かれている状況などが見えてくるのです。

 

そうすると、自分がどれだけありがたい生活をしているか。ふだんは考えることのなかったいろんなことが学べて、新しい発見もいっぱい出てくるはずです。

 

そして、“感謝すること”、“満足できること”が、自分の身近なところにあることに気づく。

 

“あなたは毎日ご飯が食べられているでしょう?”“住む場所があるでしょう?”“今まで何が不満でぜいたくを言っていたのか……”。

 

まずは自分自身を見つめ直すこと。そしてそれを次のステップへつなげる。

 

ただ古きよき時代に浸るのではなく、昔のよかった部分を継続しながら、今のいい部分は活用する。そして自分に合う部分は新しい進化も取り入れる。それが新時代を生き抜くためのヒントです。

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