パレスチナ、シリア難民の力に…「憎しみ超える」SUGIZOの音
(撮影:Kei Sato)

中東の乾いた空に、大音量のダンスロックが響きわたる。初めて接したギター生演奏の迫力に戸惑っていた子どもたちが、2曲目になると手拍子しながら踊りだした。

 

抑え込まれていた好奇心がはじける。見てるだけじゃつまらないとばかりにギターの弦にさわってきたり、パーカッションを一緒にたたいたり。日本ではありえない光景に、ミュージシャンたちも愉快そうに笑顔で演奏を続けた。

 

昨年10月半ば、パレスチナ自治区にあるアイダ難民キャンプ。長年イスラエルの軍事占領下にあり、その象徴が、町のあちこちに築かれた8メートルもの「分離壁」だ。

 

約100人の難民の子どもを前にギターを弾くのは、LUNA SEAとX JAPANのギタリスト、SUGIZOさん(49)。日本を代表する2つの人気ロックバンドやソロでの音楽活動に加え、多くの社会問題に取り組んでいる。

 

いつもアリーナ級の会場を満員にしている彼にとって、難民キャンプのビル屋上でのライブは、準備段階から異例ずくめだった。

 

「エレベーターもないので、重い機材をメンバーみんなと階段で運んだり。当然、ステージも照明もありません。演奏が始まると、中東流のうれしさの表現なのか、男の子たちがビュンビュン側転するのが、かわいくて。僕にとって、今までで最年少の観客たちでした」

 

その難民キャンプの子どもたちにとっては、久々に感情を解き放つことのできたひとときだったに違いない。

 

「難民支援をしたいとずっと思っていて、’10年ごろからUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の方々とも知り合い、イベントに呼んでもらったり、シンポジウムで勉強させてもらっていました」

 

SUGIZOさんと、’13年にUNHCRを通じて出会ったというファッションデザイナーの渋谷ザニーさん(34)は次のように語る。

 

「僕自身、ミャンマーからの政治難民です。SUGIZOさんは会うたびに難民問題について真剣に問い、音楽で難民支援をしてくださいます。アーティストとしての交流をさせていただき、一昨年には『今度はザニーさんの衣装を着るから』と、夢のような約束を実現してくれました」

 

’16年春のヨルダンのシリア難民キャンプ行きは、UNHCR側からの誘いだった。このときは個人としての訪問だったが、SUGIZOさんがミュージシャンと知った現地の人から「演奏してほしい」と依頼が届いた。

 

「バイオリンを現地の仲間に調達してもらって実現しました。ふだんは異性の前ではなかなか感情を出せない女性や子どもたちも喜んでくれて、僕自身、改めて音楽の力を実感し、また必ずやりたいと考えていました」

 

国際文化交流事業を行うICEJ代表の山本真希さん(40)がSUGIZOさんに初めて会ったのは、昨年末のLUNA SEAのライブだった。

 

「私たちのパレスチナ難民支援の記事を新聞で読んだSUGIZOさんが、日本で暮らす難民の青年たちをライブに招待してくれました。その後、『パレスチナの現地の難民キャンプで演奏してもらえたら、うれしいです』と話すと、その場で『僕、やりますよ!』と即答してくれたんです」

 

10カ月の準備期間を経て、冒頭のとおり、昨秋には難民キャンプなど3カ所でのライブが実現した。

 

「ライブ会場への移動中も、気付くとSUGIZOさんは現地の子らとサッカーをしてたり、幼稚園があると『寄っていこうよ』と言ったり、本当に子どもが好きなんだと思いました」(山本さん)

 

最後のライブはナブルスという町。SUGIZOさんが言う。

 

「『The Voyage Home』というラストに演奏した曲は、シリア難民キャンプを訪れたことをきっかけに生まれた曲。初めはシリアの戦火から逃れる人々を思って演奏していました。それがライブを続けるうちに、あらゆる国の難民や故郷を追われて暮らす人々が、いつか帰郷できて元の生活を取り戻せますようにという祈りの曲になっていた。さらに、その祈りの思いは、福島第一原発の事故で故郷を追われた人や、いまだに仮設住宅で暮らす人にとっても同じだし、また、昨年も各地で豪雨や震災などの災害がありましたが、そうした日本の被災者の方たちも近い境遇を強いられていると気付いたんです」

 

SUGIZOさんの奏でるメロディは、かつてイスラエル軍により世界で最も多くの催涙弾が投げ込まれたというアイダ難民キャンプでも、8メートルもの高さの分離壁を軽々と飛び越えて、すべての故郷を夢見る人たちの耳へ、そして心へと届けられた。

 

「キャンプ生活であらゆる自由を制限された人たちに音楽を届けることの大切さを、2年前に初めてシリア難民の方たちを前に演奏したときに痛感しました。これは、続けていきたいと思っています」

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