原作者・葉真中顕さんの想定超える安田顕の見事な悪役ぶり

「自分の作品が映像化されるのは、『絶叫』が初です。WOWOWの連続ドラマWは地上波ではできない挑戦をしているし、映画っぽい作りをしているところが気に入っていましたので、とても光栄なことだと思っています」

 

そう語るのは、現在、WOWOWプライムにて放送中の『連続ドラマW 絶叫』(日曜22時~)の原作者・葉真中顕さん(43)。老人介護を扱った犯罪小説『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。ミステリー作家としてデビュー後第一作となる『絶叫』(’14年・光文社刊)が初の映像化。

 

1人の女性が、昭和から平成へと移り変わる時代に翻弄されるように転落していく物語は、貧困、無縁社会、ブラック企業、と時代の暗部を描いた社会派サスペンス。主人公の鈴木陽子役に尾野真千子(37)が起用されたと聞いたときは、「まさにイメージどおり」と思ったという。

 

「実は、原作を執筆しているときに尾野さんの名前を挙げていたんです。編集者とよくそういう話をするんです。『もしも、この本が映像化されたら陽子役は誰がいい? 尾野真千子さんがいいなあ』なんて言いながら(笑)。だから、今回のキャスティングが決まったときは、改めてピッタリだと確信しました」

 

「あなたは~」と二人称で陽子の人生が綴られていく物語は、幼いころから母親に愛されなかった陽子の、寂しさゆえに母親にゆがんだ愛情を抱く様子が痛いほど表現されている。

 

「人は誰しも多かれ少なかれ、やりたいことが思うようにできないとか、本当はやりたくないのにやってしまうということはあります。人間が抱くネガティブな感情は、性別関係なく普遍的だと思います。しかも、自分で自分をコントロールできなくなる極限の状態は、肉親や恋人、夫婦間で生じることが最も深刻であると思っていて、この作品ではそこを前面に出しました」

 

いっぽう、ホームレスを囲い込み、生活保護費を奪う悪徳ビジネスを行うNPO法人の代表・神代武は安田顕(45)が演じている。

 

「神代はずんぐりむっくりした毛むくじゃらな男。風貌は安田さんと全く違いますが、実際、ドラマの撮影を見させていただいたらめちゃめちゃハマっていて驚きました。見事な悪役ぶりでしたし、安田さんが解釈する神代武というキャラクターがしっかり出来上がっていて、原作者のイメージを超えたものになっていました。もともと私、安田さんのことは大好きで、役づくりが素晴らしいと常々感心していたこともあって、やはり、さすがだなと思いました」

 

 

善悪を超越した得体の知れない思考を持ち、陽子を犯罪者へと変貌させていく神代。ひときわ突出したキャラクターになったのには明確な理由が。

 

「神代はこの作品のなかで唯一、現実から浮遊したキャラクターです。名前に“神”の一文字を入れているのも、彼が人間離れした存在だと暗示する意図があります。喋り方や風貌も含めてフィクション的な要素の強いキャラクターになりました」

 

女性自身は『絶叫』放送スタート時に安田顕のインタビューを掲載。神代の役作りについて「強面の人間をそのまま怖く演じず、あえて物腰を柔らかくしてギャップを見せている」と言っていたことを葉真中に告げると、「素晴らしい!」と感嘆の声を上げた。

 

「神代は“人たらし”でもあるんです。人を騙し、自分の思いのままに操る。それができるのは、神代のなかに懐の深さみたいなものがあったり、人をひきつけるものや気さくさがあったりするからなんです。安田さんがどんな人たらしを演じてくださるか、ますます楽しみですね」

 

小説の発表から5年以上を経ったが、作品のテーマである孤独死、女性の貧困といった現代社会の問題は当時より顕在化した印象も。これまでも社会的弱者の声なき声を描写してきた葉真中は、本作でホームレスを社会から棄てられた民“棄民”として描いている。

 

「僕自身、つねに問題意識として持ち続けていることなんです。というのも、日本は昔から定期的に棄民政策を行ってきました。戦前には、国内の人口増加を吸収させる先として満州やブラジルにどんどん人を出し、その先は何もしないで放ったらかし。高度成長期も同じように国外に人を流出させてきましたが、バブル崩壊後の現代は国内に人を留めたまま、ある種の棄民政策を行なっているのではないかと思っています。日本は一億総中流と言われているけれども、その陰では国に見捨てられた人たちがいるということを国民は認識すべきです」

 

カルト教団の無差別銃テロ事件を描いた『コクーン』、特高にスポットを当てた警察小説『凍てつく太陽』と次々に上梓。ミステリー作家として目覚ましい活躍を続ける葉真中が作家を目指したのは小学生のときだったとか。

 

「子供のころからクリエイティブには興味があって、ノートの端にちょっと小話を書いていました。文化系人間の手習いとしてみなさんやるんじゃないかな(笑)。漫画が描ければ絵を描くんだろうけど、私はよく文章を書いていました。大学に入ってからは映画研究会や文芸同人界に入って、ずっと作家になりたいと思っていました」

 

さらにミステリー作家を目指した理由を聞いた。

 

「ミステリーとエンターテイメントはほとんど同義だと思っているんです。ミステリーにはいろんな種類があって、トリックや謎解きを主体に書く本格ミステリーがあれば、何か犯罪が起きて、それに関わる人々の人生を描写するような犯罪小説に近いものもあります。僕の場合は後者になりますが、エンターテイメントを意識するとミステリー的な作り方になる傾向があって、それでミステリー作家という形になっています」

 

最後に、「女性週刊誌を読むことはありますか?」と訊ねると、「歯医者さんとかでたまに見ますよ」と笑って答えてくれた。

 

「下世話なネタが多い(笑)。でも、それは大事だと思います。週刊誌の読者はわりと年配だと思いますが、紙の本にいちばんお金を出してくれる人たち。週刊誌にはその人たちのいちばんキワにある興味が載っていると思いますし、当然意識しますよ。“血圧”という見出しを見ると、血圧の小説が受けるのかな? とか(笑)」

 

4月にはいよいよ新刊が発売される。

 

「現代ミステリーで、まさに平成30年間を駆け抜けるような話です。『絶叫』の奥貫彩乃刑事が出てくるので続編とも言えると思いますが、今回は子供の話を書いています」

 

新刊のタイトルは『Blue』(光文社刊)。作家としてさらなる高みに向かう葉真中の最新作、『絶叫』と共に注目したい。

 

 

【放送情報】

「連続ドラマW 絶叫」(全4話)の第2話は、3月31日(日)22時から放送。