82年ごろ、伊丹市の自宅近くで。 画像を見る

今年も多くの偉大なスターが、たくさんの思い出をわれわれに残してこの世を去った。そんな故人と親交が深かった方々から届いた、愛あふれるラストメッセージを紹介。題して、「大好きなあなたへ 最後のラブレター」ーー在りし日の姿に、心からの哀悼の意を表して。

 

■田辺聖子さん(享年91・作家・6月6日没)へ。瀬戸内寂聴(97・作家)

 

田辺聖子さんと最後にお会いしたのは10年ほど前、『源氏物語』について対談したときでした。36年間連れ添ったご主人“カモカのおっちゃん”にはすでに先立たれてしまい、ご自分で傘をさして、雨の中を、お宅の近くのホテルまでお出かけくださったのでした。何だか寂しそうだったのを覚えています。

 

私が聖子さんの家に遊びに行くと、いつもおっちゃんが待ち構えていて、聖子さんが大好きだったスヌーピーやお人形でいっぱいのホームバーで、3人で飲み明かしました。そして彼は私に、何度も繰り返したものです。

 

「聖子は天才でっせ。何世紀に一人という天才でっせ!」

 

長らく独身だった聖子さんが、町医者で先妻との4人の連れ子のあるおっちゃんの後妻になったのは38歳くらいのときでした。聖子さんは彼を熱愛し、彼も聖子さんを愛し、慈しみました。最愛の男から四六時中、天才呼ばわりされる女は、何が何でも天才にならざるをえません。彼が現れてからの聖子さんは、それまで以上に才能の花を押し開き、文章とともに容姿もみずみずしくなって、派手な服でも何でもすっきり着こなしました。

 

でも対談以来、お目にかかる機会がなくなって心配していたところに、突然の訃報でした。もう一度お会いして抱きしめたかった。

 

また私の身辺が、めっきり寂しくなりました。私も早く彼岸へ逝って、聖子さんやおっちゃんに会いたいですね。私が逝くと、2人でニコニコと出迎えてくれることでしょう。おっちゃんが寄ってきて、耳元でささやく声が聞こえるようです。

 

「よう、来たな。天才はすべからく遅れてくるもんや」

 

もちろん、私への最高のお世辞のつもりなのでしょう。聖子さん! おっちゃん! 早くお会いしたいです。

 

「女性自身」2019年12月24日号 掲載

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