「特別養子縁組制度のことは、この作品に出会うまで深くは知らなかったのですが、実際に養子を迎えたお父さんやお母さんに会うと、“わが子”のことを語る姿が、本当にキラキラしていたんです」
そう語るのは、井浦新(45)。最新の出演映画『朝が来る』(近日公開)は、朝斗と名付けた男の子を養子に迎えた夫婦と、生みの母親とをめぐる物語。井浦は朝斗の育ての親となる夫婦の夫、栗原清和を演じている。
「撮影前、妻を演じた永作博美さんと一緒に、実際に養子を迎えたご家族とお会いしました。僕が演じる清和は無精子症で子どもを授かることができないのですが、そのご家族と話した時間が役と向き合ううえで貴重な経験になりました」
栗原夫妻と朝斗の生みの親を名乗るひかりとの対面は、緊迫感みなぎる場面だ。河瀨直美監督の徹底したこだわりで、ひかりを演じた蒔田彩珠とは撮影以外で顔を合わせることはいっさいなかったという。
「河瀨組では、カメラが回っていないときも俳優は役のまま生活する。1ミリでも芝居をしたら止められます。僕と永作さんが朝斗と『今日のお昼ごはん何にする?』とかふだんどおりに過ごしていると、ひかりが『子どもを返して』と訪ねてくる。僕らは必至で朝斗を守ることしか考えていませんでしたが、完成作を見て、彩珠さんがどんな気持ちであの場面にたどり着いたのかを知ると、もう痛くて痛くて……」
しかし、エンドクレジット後の朝斗の言葉は、親たちへの希望ともとれる。「あれは台本にはないセリフ。監督から厳しい撮影を終えた僕たちへの愛情の『ギフト』では(笑)」と井浦。本作を通して、家族のあり方を考えたそうだ。
「日本人は世界から見ても血(のつながり)にこだわりがちですが、家族とは血で決まるのではなく、一緒に過ごした時間や経験が積み重なってできていくものなのだと思いました」
私生活では2児の父親だが、新型コロナウイルスの影響で自粛が続く日々をどう過ごしているのだろう。
「親としていつもと変わらない姿をちゃんと見せなければと思う半面、予定していた撮影が飛んだことでふだんは途切れ途切れになっていたことをやり続ける時間ができたんです。かるたやけん玉をしたり、僕が買い続けてきたレコードを子どもたちが選んで聴いたり、そういうなにげない家族との時間に幸せを噛みしめていました」
“家族”のことを語るとき、井浦の表情もまた輝いていた。
「女性自身」2020年6月16日号 掲載