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「よっちゃんが本当におかしくなっているかも……。そう思うようになったのは3年前のこと。ある夜中に隣で寝ている主人に、突然、たたかれたんです。一瞬、何があったのかわからなかったし、翌朝には、本人もケロッとしていましたが、今から思えば、あれが最初の兆候でした」

 

そう語るのは、漫画家でタレントの蛭子能収さん(72)の19歳年下の妻、マルちゃん(53・仮名)。

 

今年7月、蛭子さんは、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)で、アルツハイマー病とレビー小体病を併発している初期の認知症であることを公表しているが、マルちゃんは、蛭子さんが認知症の公表にいたるまで、病気が進行していく夫のそばにずっと寄り添っていた。

 

「’14年にMCIと診断されてからは、野菜を中心にしたり、青魚を食卓に出したりと食事には気をつけていたつもりです。運動を兼ねて神社仏閣を一緒に回ったり散歩に行ったりと体を動かすことにも気を配っていました。

幸いにも、お仕事もテレビカメラの前や他人が目の前にいると適度な緊張感があるからか、大きな症状も出ず、ご迷惑をおかけしないで済んでいました。ところが、’17 年ごろから仕事から家に帰ってくると、疲れがあるのか、さまざまな症状が出るように。この3年は、落ち着いていたかと思えば、ある日突然、認知症の症状が出て、いきなり加速してしまうような繰り返しでした」

 

蛭子さんの症状は、夜寝ているときに悪夢をみて、奇声を上げたり暴れたりするレム睡眠行動障害や、暑くないのに、異常な汗が出てくる異常発汗など、レビー小体型認知症の初期症状に見られるものだった。

 

「症状がひどいときは、たとえばお風呂に入っていても、シャワーはどうやってひねればお湯が出てくるかわからなくなったり、自分のシャンプーがどれかわからなくなったりすることも。お風呂から上がっても、体の拭きが甘くて、びしょぬれで下着を着てしまうようなこともありました。よっちゃんも、自分の状態がおかしいことには気づいているようでしたが、どうしていいかわからない。そんな戸惑いや不安があったのもしれません。

そんな日々のなかで特につらかったのは……、主人は、一晩に5、6回、多いときは10回以上もトイレに起きますが、瞬間的に用を足すという目的を忘れたり、トイレの場所がわからなくなったりして混乱してしまうことがあるのです。そのため、たえず私が一緒にトイレに付いていかないといけません。眠れない日々が続き、心身ともに疲れ果ててしまいました」

 

実は、最初の症状が出てからこの3年間で、マルちゃんは4度も救急車で病院に担ぎ込まれている。精神的なものからくる急性胃腸炎だったという。蛭子さんの認知症の介護をマルちゃんは、たった1人で抱えていた。

 

「月1回の割合で担当医の診察を受けていましたが、なかなか症状が改善することはありませんでした。それまで夜に症状が悪化することが多かったんですが、最近は、日中でも洗濯カゴの衣類を見て、私が倒れていると思って叫んだり、デパートの売場の中を電車が走っていると言い出したりすることも。そんな24時間、目が離せない状態が続くと、死んでしまおう、と思ってしまうんです。不満が主人に向かうことはありませんが、すべてキレイに片づけて、死んじゃおうかな、というのは、いつも頭をよぎっていました」

 

蛭子さんにとっては、タレントとして大きな決断となる認知症の公表だが、マルちゃんにとっては“SOS”だったのだ。

 

(撮影:加瀬健太郎/取材:山内太)

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