「16歳から芸能界にいたため、電車の乗り方もわからず、最近までPASMOで切符を買って、改札を通っていたほどでした(笑)」
そう話すのは、’81年に女性アイドル3人組のグループ「PANSY(パンジー)」を結成した北原佐和子さん(57)。歌手デビューを果たした’82年、映画『夏の秘密』にも主演。以降、数々のテレビドラマで活躍。順調に女優としてのキャリアを積み重ねてきたが……。
「女優はレギュラーの仕事が入れば忙しいのですが、撮影が終わるとぽっかり時間が空いてしまう。30代半ばくらいから、将来の不安に駆られるようになったんです」
不安と向き合い、過去を掘り返したとき、ふと思い出したのは、20代の、ある雨の日のことだった。
「車を運転していると、体にまひのある、障がい者の方がタクシーを探していたんですね。勇気を出して『よろしかったら、乗ってください』と、ご自宅まで送りました。そのとき、自分の足で立って歩く、たくましい姿に感銘を受けました」
この出来事や、高齢者との出会いによって一大決心。41歳でホームヘルパー2級を取得し、女優と介護士のダブルワーク生活を開始。
「排せつ対応は介護の仕事の一つですが、初めのうちは“私、何をしているのかしら”と感じて、苦しくなることも。でも、排せつは人が生きていくうえで必要不可欠。日を追うごとに理解できるようになりました。認知症のご利用者さまが亡くなったときは、そのご家族から『北原さんの名前を忘れないように、ベッドの横に、名前を書いた紙を貼っていたんですよ』という話を聞いて、胸が熱くなりました」
’14年に介護福祉士、’16年にはケアマネジャーの資格も取得。
「ご家族が自宅でみとるケースも増えています。そこを踏まえて、ケアマネジャー業務には医療の知識が必要だと痛感し、2年前には准看護師の資格も取ったんです」
介護の傍ら、’18年には、映画『こども食堂にて』にも出演。さまざまな人生との関わりがある介護職は、女優としても、人間としても成長させてくれたはずだ。
「現場で柔軟性を求められるという点では、介護も女優も共通していますね」
二刀流で歩み続ける彼女の挑戦は止まらない。