(撮影:You Ishii) 画像を見る

「出演作品をここまで客観的に見られないことはなかったと思います。これまでの作品のなかで、いちばんハードルが高く、役に対して時間を費やした作品でした」

 

完成作を見ての感想を聞くと、こう答えた松坂桃李(33)。

 

最新作『流浪の月』(5月13日公開)は’20年に本屋大賞を受賞したベストセラーの映画化で、女児誘拐事件の“被害者”と“加害者”のその後を描く。10歳の少女を保護したことで誘拐犯の烙印を押されてしまう青年・佐伯文(さえきふみ)を松坂が演じた。

 

いつも何か堪えているような文を、松坂はこう表現する。

 

「抽象的になってしまいますが、僕のイメージで文は、ものすごく広い湖の真ん中にぽつんと体育座りでいるような感じなんです。湖の下はものすごく深くて、のぞけばのぞくほどどんどん暗い闇に入っていくような。探っても探りきれない、心の深さが彼の中にはある」

 

繊細そうな文の細い体形は、撮影前から食事制限などで作り上げた。最終調整時にはバナナ1〜2本で過ごすこともあったという。

 

「現場に入る前から少しずつ体重を落としていった結果、(ネットなどで)『松坂桃李激やせ』と言われるようになり(笑)。作品のためにやっているんだけど、まぁいっか、と。それよりも、内面を深掘りする作業のほうがものすごく難しかったですね」

 

“被害者”と“加害者”を引き寄せた孤独。「文には、自分ではどうしようもない、あらがうことのできない絶望というものが常にあって」と話す松坂が演じる、儚いまなざしの文が印象に残る。

 

取材の最後に、人と違うことで孤独を抱える文になぞらえて「人と違う面」を聞いてみると、なんだろうなぁ……と真剣に考え込むこと数回。その姿からも仕事への真摯な取り組み方がうかがえた。そしてこのような返事が。

 

「10年以上同じ靴を履いていることでしょうか。壊れたら直す、を繰り返しているんですけれど、修理するなら買ったほうが早いよと周りから言われたことがありました。自分の中では普通なんですけど。そこは人と違うのかもしれないです」

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