■午前中はずっと洗濯板の練習…『キネマの天地』の舞台裏
さまざまなファッションに目移りしながら興味を深めていったころ、書店で手に取ったのが『mc Sister』だったという。
「トラッド系のファッションにも興味が湧きましたが、そればかりじゃなく、グルメや映画の情報なども満載で、読み応えがあったんですね。それで中3のとき、“どういうふうに作られているのかな”と気になって、1回だけでいいから撮影現場を見たいっていうノリで、モデル募集に応募したんです」
物おじする性格だった有森さんとしては、かなり勇気のいることだったであろう。
「写真と履歴書を送ると、一次審査に来てくださいと連絡があり、当時、新橋にあった婦人画報社に行ったのですが、キレイなお姉さんばかりで、気後れしました」
しばらくすると「読者が登場するページを作るから」と連絡が。
「ふだんの姿と、プロのスタイリストやヘアメークの手の入った姿を比べる、ビフォーアフターのような企画。私はふだんの姿として、母の作ってくれたツーピースに茶色のサンダルを合わせたのですが、それがけっこうダサかったみたいで。企画的には成功したんじゃないでしょうか(笑)」
これを機に専属モデルとなり、モデル事務所にも所属。高校入学後には、振り袖のカタログモデルなどの仕事も入るようになった。
「初めて出演したテレビCMは『タケダ漢方便秘薬』。結婚式場の『平安閣』のモデルのお仕事もあり、16歳くらいでウエディングドレスを着たりもしました。でもけっしてモデル向きの体形ではなかったから、事務所は芸能のお仕事を多く入れてくれるようになったんです」
テレビドラマで女優として活動を始め、’86年には『星空のむこうの国』で映画デビュー。同年8月公開の『キネマの天地』でもヒロイン役に挑戦した。
「ドラマに何本か出ただけの素人だった私に、山田(洋次)監督も頭を抱えたんじゃないでしょうか。タライと洗濯板を使うシーンも、午前中いっぱい練習をして、さまになってきたら撮影が始まるという感じ。スタッフから『素人がスターになっていくサクセスストーリーだから大丈夫だよ』と慰められましたが……」
同作品でブルーリボン賞新人賞、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『東京ラブストーリー』(’91年・フジテレビ系)などトレンディドラマにも出演し、女優として飛躍を遂げた。
ファッションでしか自己表現することができなかった有森さんの、才能が開花するきっかけを与えてくれたのが『mc Sister』だったのだ。
【PROFILE】
有森也実
’67年、神奈川県横浜市生まれ。’82年、雑誌『mc Sister』の専属モデルに。’86年の映画『キネマの天地』のヒロイン役で日本アカデミー賞など各賞を受賞し、’91年に出演した『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)でも注目を集める。映画『天上の花』今冬、公開予定