99歳にして自在に筆を…瀬戸内寂聴さんは最期まで作家だった
画像を見る 寂聴さんからは“裕さん”と呼ばれていた中村裕監督

 

■99歳にして自在に筆を運ぶ

 

最後の撮影となったのは、蛍の季節。寂聴さんが亡くなる半年前の2021年6月のことだった。

 

「嵯峨野の清滝へ蛍を見に一度ご一緒したことがあり、その話をしながら一緒に飲んだんです。すると、翌朝の朝日新聞の連載に載せる原稿をまだ書いていないことを知って。僕が心配すると、先生は『書くことは決まっている。大丈夫。蛍のことを書く』と」

 

翌朝の新聞には蛍がテーマの私小説が綴られていた。主人公は、“女と別れるたびに寂庵を訪れている男”……。

 

「僕らしき男(笑)。でも、男は寂庵に30年来通っていることになっていて、虚実ないまぜで自在に筆が運ばれていて……。僕の部屋も見たことないのに、『鮮やかに思い浮かべることができる』と書いてあった。先生は99歳にして、時空を超えて自由な境地に行かれて物を書いていらっしゃるんだと感動しました。最期の最期まで小説家だった証しですよね」

 

2021年11月9日、寂聴さん逝去。100歳まであと半年だった。

 

「あるとき、『先生と僕の関係は男女の関係だと思っています』と伝えたことがあります。先生は『肉親みたいなものよ』と照れてらっしゃいましたけど(笑)。でも、僕は本当にそういう面があったと思っています。恋愛のことなど何でも話しましたが、本当の肉親とはそんな話はしませんから。いずれにせよ、さまざまなものをいただいて、感謝しています」

 

映画は全国で公開中で、7月9日にはシネモンド(石川県金沢市)と福井メトロ劇場(福井県福井市)で、10日にはCINEX(岐阜県岐阜市)で、中村監督の舞台挨拶が予定されている。

 

「裕さん、次はいつ来るの?」。中村さんは、寂聴さんからのそんな電話が、いまもまだかかってくるような気がするというーー。

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