■親指にコントローラーの十字キーの痕が
大学の勉強とアルバイトに追われ、サークルに入る余裕はなし。世は女子大生ブームなのに、「地味な学生生活」を送っていたが、’83年に大きな転機が訪れる。
アルバイト先の芸能プロダクションのすすめで受けたオーディションに合格し、映画『あいつとララバイ』(’83年)で女優デビューを飾った。さらにーー。
「あるとき、アルバイト先で『そういえば君、女子大生だよね。明後日の夜、空いている?』と声をかけられたんです。深夜番組の『オールナイトフジ』(’83~’91年・フジテレビ系)に出ていた女子大生が、スキー旅行で何人かけがをしたため、出演者が足りなくなったということでした。とにかく『座っているだけでいい』と言われたんですが……」
いざスタジオに入ると、司会の松本伊代の横に座り、簡単な原稿を読むことに。
「学校で発表するのも緊張するタイプだから『生放送でやれるわけないです』と訴えたんですが、『読んでくれるだけでいいから』って。案の定、間違えるし、つっかえるしで散々でしたが、スタッフさんは『素人っぽさがウリだから』と、許してくれました」
それから間もなく『オールナイトフジ』の司会者に抜擢され、そして’85年にはお昼の連続ドラマ『幸せさがし』(TBS系)で主演に選ばれた。
「とにかく撮影時間が長くて、家に帰る暇もないくらい大変。3~4カ月ほど、緑山スタジオの仮眠室で生活していました」
そのような事情もあり、大学で留年を重ねていたころ、ファミリーコンピュータ(ファミコン)の存在を知った。
「大学とは別の、東京で仲よくなった友達がいたんですね。外食がそれほど好きじゃなかったので、お互いの家に行ってご飯を作ったり。そのコがゲームに詳しくて、ファミコンを持っていたんです」
インベーダーゲームも含めて、ゲームをまったくやったことがなかった彼女がハマったのが、『スーパーマリオブラザーズ』(’85年)。
「最初は下手でしたけど、上達してステージをクリアすればうれしいじゃないですか。つい指に力が入ってしまうので、親指にコントローラーの十字キーの痕がついたりしました(笑)」
ロールプレーイングゲーム(RPG)の『ゼルダの伝説』(’86年)にも夢中になった。
「“攻略本に頼るのは負けだ”と思いながらも、裏技を知りたいがために、結局は本に手を出してしまいました」
3~4人の友人たちで集まってゲームを楽しむときは、マイコントローラーを持参。
「ゲームをしながら食べられるように、ちょっとつまめるお総菜を持ち寄ったり、デリバリーのピザを頼んだり。それもすごく楽しい思い出です」
その後も仕事は順調で、月9のトレンディドラマ『君が嘘をついた』(’88年・フジテレビ系)にも出演した。
「私はちょっと老けて見えたのか、ドラマでは意地悪な先輩役が多かったですね(笑)。バブル期だったので、仕事では肩パッドが入ったブランドものの服を着るのですが、プライベートは相変わらず地味で古着が好きだったので、日常と役柄のギャップがだいぶありました」
そんなオンとオフをしっかりと切り替えるには、ゲームに没頭するのが何よりだったそう。
「とにかく友達とゲームをやると、頭が空っぽになり、時間を忘れて朝まで楽しめるんです。気持ちもリセットできるし、最高のストレス発散法でした」
新人女優としての多忙な日々を乗り切れたのは、親しい友人らと、朝までゲームを楽しむ時間を過ごしたからなのだ。
【PROFILE】
麻生祐未
’63年、大阪府生まれ。幼稚園から高校まで長崎県で過ごす。青山学院大学在学中の’83年に映画『あいつとララバイ』でデビュー。カネボウのキャンペーンガールとしても人気を博す。9月19日放送の『三屋清左衛門残日録6』(日本映画+時代劇4Kチャンネル)に出演