■将来の不安を忘れられた『東京ラブストーリー』
上京して最初の夏、原宿を歩いていると、アイドルグループ・東京パフォーマンスドールのステージがあった。
「お客さんは5人もいなかったのですが、篠原涼子ちゃんの存在感は抜群! ステージも素晴らしいと思いすっかり魅了されてしまいました。公演後にスタッフに呼び止められ、私も加入できることになったのですが……」
当時の東京パフォーマンスドールはまだまだ売れないアイドルで、学校とレッスン場を往復する毎日。“このままずっと芸能界で活躍できないかも”という不安がつきまとっていた。
「そんな不安を忘れられたのが、毎週楽しみだった『東京ラブストーリー』を見ているとき。なんとなく恋愛のことがわかるようになってきた年齢だったこともあって、すごく感情移入できました」
物語は、赤名リカ(鈴木保奈美)と永尾完治(織田裕二)がひかれ合うも、すれ違いや思い違い、恋のライバルによる妨害によって、くっつきそうで離れてしまう展開が続いた。
「だいたいドラマの中盤くらいから“これは今週も一波乱あって、2人の距離は縮まらないな”ってわかりながらも見入ってしまい、最後に“チャカチャーン”というイントロで始まる『ラブ・ストーリーは突然に』(’91年)が流れる。今でもあの曲を聴くたびに、切なさを思い出します。特に印象に残っているのが、映画館の前でリカがカンチを待っているのに、カンチに思いを寄せるさとみ(有森也実)が『行かないで』と引き止めて、結局、リカは夜まで一人で待ちぼうけになるシーン」
煮え切らないカンチに腹を立てた人も多いはずだが、穴井さんの怒りの矛先はライバルの存在。
「さとみちゃんがひどすぎです! リカが待っているのだから、カンチを行かせてあげてよって思うんですよ(笑)。まるで自分が失恋したかのように、胸が苦しくなるんです」
今、穴井さんは大学生の息子や16歳の娘たちを見て、恋愛観の変化を感じているという。
「LINEがあるから、カンチとリカのようなすれ違いの経験がなく、約束の時間に来ない恋人を夜中まで待ち続ける感覚は、理解できないのかもしれません。リカはカンチと別れて海外に行ってしまいますが、今ならFacebookで、遠く離れても何をしているのかがわかってしまう。『東京ラブストーリー』では、現代では味わえない恋愛の切なさが描かれていました」
その後、穴井さんの仕事が徐々に増え始めるとドラマを見る時間も限られた。
「だから、江口洋介さんのイメージも、女のコにモテる医大生の三上くんのまま。たまたま息子が江口さんのお子さんと同級生ということもあって、それを森高(千里)さんに話すと『そうなの~?』って笑われてしまいました」
同作品は再放送があるたびに全話制覇していたため「今まで10回くらいは見ています」という。
「リカとカンチが結婚して、子どもを7人くらい授かって、おじいちゃん、おばあちゃんになる……。本当はそんなハッピーエンドの続編が見たいんです」
【PROFILE】
穴井夕子
’74年、大分県生まれ。’90年に篠原涼子も参加していた東京パフォーマンスドールのメンバーとしてデビュー。アイドル活動のかたわら多くのバラエティ番組でも活躍する。’00年にプロゴルファーの横田真一氏と結婚、現在は夫婦円満や子育てについての講演活動も行っている