■書けば書くほど、社会は変わっていないと気づいて怒りはあります
すべての執筆を終えた吉田さんは息子さんが「ママが作ったご飯が食べたい」と言い始めたと驚く。
「本作の作業が始まったのは一昨年。息子はまだ幼児食を食べているころでした。本格的な執筆を始めたのが去年の春で、皆と同じご飯を食べられるようになった。でも朝ドラ執筆中は、母のご飯をメインに食べていました。そのことを何か感じていたのかも? この前、一緒にカレーを作ったらとても喜んでいました。あと最近、息子は留守番もできるようになって成長も非常に感じています。おかげでドラマの打ち上げも参加できました」
脱稿後、息子さんを撮影現場に連れていきセットを見せると……。
「伊藤沙莉さんの前ですごく照れちゃって。子役の子とウルトラマンの話をしていました。その帰り道です。道端で『この木ってさあ、セットの木みたい』って(笑)。『虎に翼』が放送されていると、『これセットなの? ママ』と聞いてきたり。これからも許せば、現場に連れていこうと思いました」
朝ドラで社会的問題や性的マイノリティを取り上げたことにSNSでは賛否両論の意見も。描いたのは「差別をなくそう」「男女雇用の均等」「戦争や原爆の怖さ」「女性も働きたい人・働きたくない人、それぞれでいい」……。
「これが政治的といわれる世の中が怖いですし、役者さんの負担になるのもおかしい。だから私は言葉を発しようと思っています。そしてこんな時代だからこそ、『ダメなものはダメ』と言わなければいけない。エンターテインメントだからできることがある。そのことを諦めたくありません」
『虎に翼』でメッセージは伝えられたし、後悔はないと言いきる吉田さん。寅子のような先人がいたから今の私たちがいる現実がある。
「だけど、書けば書くほど、社会は変わっていないことに気づいて怒りはあります。今回書いたものは、小さな一歩かもしれないけれど、“朝ドラで描かれた”判例として社会に残っていきます。その問題を知る契機になる。書き終えた今、私はまた朝ドラを書きたいと思っています」
物申すことはやめない。透明な人を作らない。寅子の物語は完結しても、吉田さんは家族に支えられながら新たな戦いを続けていく。
(取材・文:川村一代)