■徳兵衛にとってお初は遊女でなく一人の惚れた女性
【トリビア6】カギを握る演目『曽根崎心中』は鴈治郎さんのお家芸
喜久雄と俊介の運命を大きく左右する演目が名作『曽根崎心中』だ。
「江戸時代に近松門左衛門が初めて書いた心中もので、遊女のお初と徳兵衛が純愛ゆえに心中する悲恋。歌舞伎では昭和28年(1953年)に原作を書き直して初演し、祖父の二代目中村鴈治郎が徳兵衛を、父の二代目中村扇雀(のちの四代目坂田藤十郎)がお初を演じて、父の当たり役となり、うちの“お家芸”とされています」
【トリビア7】代役は歌舞伎役者が一皮むける大チャンス
喜久雄と俊介の一人が『曽根崎心中』のお初の代役に抜擢されてスターへの階段を上っていく。実は鴈治郎さんも21歳のときに、『曽根崎心中』の徳兵衛に祖父の代役として抜擢されていた。
「歌舞伎に休演はありません。誰かが舞台に立てなくなると、代役が立てられます。選ばれ方は、その役を演じた経験があるかなどで一座(その興行の出演俳優)の中から抜擢されます。これは大きなチャンス。ダメでもともとで挑戦できますが、機会を生かせるかどうかは、それまでの本人の努力次第」
【トリビア8】『曽根崎心中』のお初の“お歯黒なし”にこだわった理由
「歌舞伎では、お初は遊女なので、通常はお歯黒をするのですが、父の演じるお初の恋人・徳兵衛を演じるなかで、『徳兵衛にとりお初は、遊女ではなく一人の惚れた女性だ』と感じていました。また映像だとお歯黒は目立ちますよね。そこで映画では『お歯黒なしでいきたい』と、李監督に提案しました」
【トリビア9】喜久雄の楽屋の化粧前は鴈治郎さんの私物
「歌舞伎俳優の在り方をリアルに伝えるために協力は惜しみませんでした。喜久雄の楽屋に置いてある化粧前をはじめ、すべて私の私物をお貸ししました」
【トリビア10】鴈治郎さんをうならせた2人に託された“願い”
横浜が「吉沢君の踊りをみたとき、すごく柔らかくて艶っぽい」と語れば、吉沢は「(横浜は)本当に形がきれい」と話すなど、互いに切磋琢磨し、喜久雄と俊介を演じきった。
「北風と太陽でいうなら2人とも太陽だけどタイプが違う。この2人だからこそこれまでの作品になった。これからも日本舞踊を続けてほしいとの願いを込めて、扇屋さんに頼んで日本舞踊で使用する仕舞扇を1本ずつ贈りました」
最後に映画の見どころをきくと、
「全部です。まばたきする間も惜しんで堪能して」と、鴈治郎さんは、歌舞伎の舞台へ向かっていった。
画像ページ >【写真あり】俊介を演ずる流星。あけっぴろげな御曹司という役柄だったが……(他7枚)
