■結婚から14年、事件はある日突然起こった――
「その日も、原作の締め切りで切羽詰まっているころでした。まだ何もできていない状態で、村崎さんはパソコンの前で『うぅ〜』と唸っていました。夕方ごろ、食事に誘ったんですが『食べに行ける状況じゃないだろ!』と怒鳴られて。ピリピリした彼をおいて、私は一人で食事に出かけたんです。
2時間ほど外で時間をつぶしてから、原作が上がって、村崎さんの機嫌も直っていることを願いながら帰宅すると、自宅の前に何台ものパトカーが停まり、規制線が張られていたんです」
警察官に誘導されたパトカーの中で、森園さんは事件の報告を受けたという。村崎さんを刺殺した犯人は、現場から警察に「今、人を殺しました」と自ら通報し、既に警察署に連行され、遺体も警察病院に運ばれた後だった。すべては、森園さんが家を空けていた2時間の間に起きていたのだ。
森園さんは精神的なショックから、事件現場となった自宅に帰ることができず、それから8カ月余り、ウィークリーマンションで暮らすことに。そして、“ある後悔”に苛まれ、食事も満足に取れず、眠れない日々を過ごした。その間、家族以外のほとんどの人との連絡を遮断し、仕事もできる状況ではなかった。
「事件当日、私はいつもの癖で、玄関に鍵をかけずに出かけたんです。それで、『もし鍵をかけていれば彼は助かったのでは?』という責任を強く感じていました。『もしも、一緒に出かけていれば?』『私がもっと早く帰宅していれば?』とか、ぐるぐると自分を責め続けてしまい……。けんか別れのような最後だったのも後悔するばかりで。
でも、考えれば考えるほど、事件に関しては不思議なこともあるんです。村崎さんは、当時110kg以上もある巨漢で、空手の黒帯も所持する人。それに比べて、犯人はヒョロっとした細身の男。明らかな体格差があるのに、一方的に刺されるなんてことがあるのか疑問だったんです」
