歩こう!舞台の上を“さんぽ”しよう『となりのトトロ』の主題歌で脚光を浴びた歌手・井上あずみさん(60)
画像を見る ’65年石川県金沢市で3姉妹の長女として生まれた井上あずみさん。小学生のころから、地元の「のど自慢大会」で何度も入賞(撮影:高野広美)

 

■ステージで立つことの勇気が踏み出せない。まだ歩けない、それでも一歩踏み出す勇気を

 

クリスマスを控えた昨年12月8日、あずみさんは家族とともに、東京都庁大会議場の控室にいた。

 

障害者の自立支援イベント「第45回ふれあいフェスティバル」のステージに、母娘で出演するのだ。

 

この数日前、夫の今尾さんは妻の現状をこう案じていた。

 

「あずみは頑張って訓練してきたおかげで、家では杖をついてなら、すこし歩けるようになりました。

 

でも外に出ると『あと一歩』の勇気が踏み出せません。ステージで立ち上がって歌えないんです」

 

あずみさんは即座に応じた。

 

「夢では、私、いつも歩いているんだけどね……」

 

「僕も夢に見るよ。『あれ、あず、歩けるんだ!?』って驚くと『これくらいできるよ!』って笑顔で。でも、夢なんだよね……」

 

ふたりの夢は「立って歌うこと」であり「自分の足で歩く」こと。

 

だが「現実には恐怖心があるんです」と、ステージの出番を前に、あずみさんが打ち明けた。

 

「怖い」と口にするのは、正直だ。

 

もとより、傍らでつねに手を差し伸べ、献身的にケアしてきた夫の願いを、ひしひし感じてもいる。

 

それでも、あずみさんは、

 

「ステージでまた倒れちゃったら、また多くの人に大変な迷惑をかけてしまう……。その不安のほうが、先に立ってしまうんです」

 

ずいぶんと回復したからこそ、むしろ輪郭を現す眼前のハードル。煩悶する思い、もどかしさ……。

 

すこし空気が重くなったのを察してか、彼女は笑顔を見せ、声のトーンを明るくして言った。

 

「きっと、『あ~(立って歌うって)こういうことか!』っていうタイミングは来ると思う。同じ訓練を毎日続けるうちに、いつかきっとその日が来ると信じています」

 

(取材・文:鈴木利宗)

 

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