■ステージで立つことの勇気が踏み出せない。まだ歩けない、それでも一歩踏み出す勇気を
クリスマスを控えた昨年12月8日、あずみさんは家族とともに、東京都庁大会議場の控室にいた。
障害者の自立支援イベント「第45回ふれあいフェスティバル」のステージに、母娘で出演するのだ。
この数日前、夫の今尾さんは妻の現状をこう案じていた。
「あずみは頑張って訓練してきたおかげで、家では杖をついてなら、すこし歩けるようになりました。
でも外に出ると『あと一歩』の勇気が踏み出せません。ステージで立ち上がって歌えないんです」
あずみさんは即座に応じた。
「夢では、私、いつも歩いているんだけどね……」
「僕も夢に見るよ。『あれ、あず、歩けるんだ!?』って驚くと『これくらいできるよ!』って笑顔で。でも、夢なんだよね……」
ふたりの夢は「立って歌うこと」であり「自分の足で歩く」こと。
だが「現実には恐怖心があるんです」と、ステージの出番を前に、あずみさんが打ち明けた。
「怖い」と口にするのは、正直だ。
もとより、傍らでつねに手を差し伸べ、献身的にケアしてきた夫の願いを、ひしひし感じてもいる。
それでも、あずみさんは、
「ステージでまた倒れちゃったら、また多くの人に大変な迷惑をかけてしまう……。その不安のほうが、先に立ってしまうんです」
ずいぶんと回復したからこそ、むしろ輪郭を現す眼前のハードル。煩悶する思い、もどかしさ……。
すこし空気が重くなったのを察してか、彼女は笑顔を見せ、声のトーンを明るくして言った。
「きっと、『あ~(立って歌うって)こういうことか!』っていうタイミングは来ると思う。同じ訓練を毎日続けるうちに、いつかきっとその日が来ると信じています」
(取材・文:鈴木利宗)
画像ページ >【写真あり】自宅に理学療法士が訪問してのリハビリと歩行トレーニングが週2回。通いでも週3回のトレーニングと懸命に取り組む(他1枚)
