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「愛するミュージシャンのライブを独り占めできたら……」——誰もが一度は夢見たであろうシチュエーションを現実のものにしてしまった人がいる。広いホールに、アーティストと自分だけ。その余りにも幸運な一人を相手にライブを行ったのは、何とボブ・ディランだった。

 

スウェーデン人のフレドリック・ウィキングソンは先月、フィラデルフィアにある音楽大学で行われたボブ・ディランのコンサートの唯一人の観客となった。大のディランファンであるというウィキングソンは「今まで20回くらい彼を見てきたけど、今回は僕に気づいてくれるかもね。ああ、もうどうにかなりそうだよ。20年間、僕の定番であり続けたのはボブ・ディランだけだったんだ」と開演前に語った。

 

これは、ホールを満員にすることが当たり前の大物アーティストがたった一人の観客を前にライブをする様子を追うスウェーデンのドキュメンタリー番組『Experiment Ensam』の企画。夢のような体験を控えたファンの言動や感情の遷移、そしてライブ中の様子をつぶさに記録するという試みだ。

 

開演45分前、ウィキングソンは不安を吐露する。「ちょっと変だ……というか気分が悪い。これまでの人生で、こんな瞬間はあり得なかった。彼が僕に気づいて、向き合う。そんなことになったら、僕の人生は変わってしまうよ」。一人でライブを見るということは、ワンステージで数万人の観客を熱狂させるディランのエネルギーをたった一人で受け止めるということだ。その重圧に押しつぶされそうな気持ちになるのは無理もない。

 

会場に入ったウィキングソンは、慎重に席を吟味し、6列目の中央に腰を下ろす。その約5分後、ディランがピアノの前に座り、バディ・ホリーの「Heartbeat」のカバーを歌い始める。カメラはステージとウィキングソンを交互に映し、溢れんばかりの喜びと不安がないまぜになった表情を捉える。ディランとバンドは、ファッツ・ドミノの「Blueberry Hill」、チャック・ウィルスの「It ‘s Too Late ( She ‘s Gone ) 」と、懐かしいロックンロールナンバーを次々に演奏していく。

 

ライブ終了後、消耗した様子のウィキングソンは「感情が氾濫してしまって、もうほとんど泣いていたよ。子供みたいな気分だった。そこにいることを許されたただ一人の人間であったことに感謝しているし、本当に幸せだった。でも、フラつく足で会場を出た後、もし、この感動を共有する誰かがそばにいたならよかったと感じたよ」と語った。

 

ボブ・ディランの演奏もさることながら、20年間憧れ続けたヒーローを目の当たりにし、そのパフォーマンスをたった一人で見るという尋常ではない経験をしているファンの揺れ動く感情も“鑑賞”する価値がある。

 

この様子の一部はYouTubeで公開されている。究極の非日常ともいうべき光景は必見だ。

 

 

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