ビュート郡パラダイスの車道(写真:AFP/アフロ)

 

米カリフォルニア州の森林火災は80人以上の犠牲者を出し、行方不明者も依然増え続けている。最も犠牲者を多く出した北部ビュート郡の「キャンプファイア」から、幸運にも九死に一生を得た母子がいる。San Francisco Chronicleが伝えた。

 

11月8日、帝王切開で男の子を出産したばかりのラシェル・サンダース(35)は、デイヴィッドという名の病院スタッフに車いすを押してもらい駐車場へと急いでいた。山火事の炎がすぐそこまで迫っていたからだ。他のスタッフや患者も皆、別の病院へ避難していた。白いセダンに乗り込んだデイヴィッドとサンダース、そして母の膝にしっかりと抱かれた赤ちゃんは決死の逃避行に身を投じた。

 

道路は逃げようとする車で渋滞していた。さらに両サイドから炎が近づいてきていたため、車を乗り捨てて走って逃げる人が続出していた。

 

その様子を見たサンダースは、リンカーンと名付けた我が子の頬をなで、その日までお互い名前も知らなかったデイヴィッドにこう切り出したという。

 

「もし火に囲まれて走らなくてはならなくなったら、この子を連れて逃げて。私のことは置いて行って」

 

術後間もないサンダースは走ることができなかったからだ。しかし、デイヴィッドは9時間かけて約32キロを運転し、炎の脅威から母子を逃がすことができた。

 

19日に放送されたCNNの電話インタビューで、サンダースは当時の恐怖をこう語る。

 

「無事に逃げられるなんて思っていませんでした。私たちの誰も助からないんじゃないかと思っていたんです。本当にものすごく恐ろしかった。炎の嵐が吹き荒れていて、ガスタンクが爆発する音が聞こえたんです」

 

炎に行く手を阻まれ、何度もUターンしながら逃げる間、車はサンダース家の前を通ったという。

 

「まるで家なんか最初から存在していなかったようでした。暖炉を除いてね」

 

夫婦と3人の子どもは現在も住む家がないというが、「(家も家財道具もなくなって)こんなにささやかな感謝祭を迎えるのは初めてだけど、こんなにありがたく恵まれた感謝祭も初めてです」と、デイヴィッドへの感謝を口にした。