世界中で読み継がれているベストセラー絵本『おちゃのじかんにきたとら』をめぐって、ある騒動が起きている。
男性による女性への暴力の根絶を目指す慈善団体「ゼロ・トレランス」の代表、レイチェル・アダムソン氏は、BBCラジオ・スコットランドの番組で、この絵本が「女性や少女への暴力の原因となる男女間の不平等を助長している」と指摘した。Daily Mailなどが伝えている。
『おちゃのじかんにきたとら』はジュディス・カーが1968年に出版した作品だ。女の子と母親がお茶を楽しもうとしていた時、お腹をすかせたトラが来訪し、「お茶の時間にご一緒させてもらえませんか?」と丁寧に尋ねる。
母親は快く招き入れるが、トラはお茶やお菓子はもちろん、晩ごはんや缶詰など家中の食べ物を食べ尽くしてから、何ごともなかったように帰って行く。その後、帰宅した父親が家族を食事に連れて行く、というストーリーだ。Daily Mailによれば、これまでにおよそ500万部が売れたとされている。
だがアダムソン氏はBBCラジオ・スコットランドの番組内で、「ジェンダーの固定概念は有害であり、ジェンダーの不平等を助長します。そしてその不平等がDVやレイプ、セクシャルハラスメントの温床となっているのです」とした上で、「なぜこのトラは男性なのでしょうか。女性でもなく、性別をぼかしているわけでもない」と疑問を投げかけた。
またアダムソン氏は、搾取する側として描かれるトラが、当然のように男性として登場することが、子どもたちに先入観を植えつける懸念があると同番組内で指摘した。
男性は外で仕事をし、女性が家で子どもの世話をするという描写や、父親が帰ってきてカフェに連れて行くことで窮地を脱するという結末も、古風でステレオタイプな固定観念を読む者に印象付けるとアダムソン氏が指摘していると、LBCは報じている。
アダムソン氏は、前出の番組で発言の意図をこう説明する。
「女性を助ける王子は男性で、助けが必要な無力な者は全て女性です。このようなメッセージを、この本は子どもたちに発信しているのです。
私は子どもたちに、そんなメッセージと共に成長してほしくはない。男性と女性は平等で、女性も男性と同じように強く、困難な状況から自分で抜け出すことができる、あるいは支援を受けることができる。その逆もまたしかりである、という考えで育ってほしいのです」
スコットランド保守党の子ども・若者担当スポークスマンを務めるメーガン・ガラチャー氏は「時代と共に受け止め方が変わるのは当然ですが、ゼロ・トレランスの主張には親御さんたちも困惑するでしょう。このような指摘は、長く愛されてきた書物で子どもを教え導く際には、何の役にも立ちません。子供たちの態度を変えるためには、公的資金で運営されているこの団体が、この本を保育園で読むことを禁止するよう求めるのではなく、もっと良い方法があるはずです」と、Daily Telegraph紙にコメントし、アダムソン氏の主張を一蹴した。