■かつての仮想敵国から一転…ネタ化の土壌が培われた背景
まず伊藤教授は「ネタ化が起こる背景に、2つのポイントがあります」といい、こう続ける。
「一つ目はロシアに対する感情です。もともとソ連は長い間、日本の仮想敵国でした。北方領土問題もあり、’83年にアメリカのレーガン大統領が『悪の帝国』と呼んだことで日本もそれに追従する流れがありました。
ところが90年代以降に一変し、中国や韓国が日本と敵対する国、いわゆる“反日国家”といわれることに。すると次第に、ロシアは親日的なイメージが強くなっていきました」
’17年4月、フィギュアスケートのエフゲニア・メドベージェワ選手(22)が『世界国別対抗戦エキシビジョン2017』で漫画『美少女戦士セーラームーン』の主人公・月野うさぎになりきって演技をして話題に。’18年5月には、アリーナ・ザギトワ選手(19)が秋田犬のマサルをもらって喜ぶ姿がメディアを通して何度も伝えられた。
また’16年12月18日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)では「ロシア、特に極東では、日本はなかなかチャーミングに映っているみたい」「ウラジオストクあたりで走っているのはオール日本車」とゲストの武田鉄矢(72)が“ロシアの親日ぶり”を話すシーンもあった。
「ロシアは、かつての日本にとっての強みだったサブカルチャーや日本車を認めてくれる。いっぽう中国や韓国は、サブカルチャーや自動車産業で日本をどんどん追い抜いていく。そこでロシアに親近感をいっそう覚えるのでしょう。ある種、文化的にも経済的にも優越感を抱いていると言えるのかもしれません」
さらに、もう一つのポイントは“プーチン大統領のキャラクター”だという。
「権威的な人物が、同時に反権威主義的なところを持ち合わせていると、大変人気が出やすいんです。プーチン大統領も権力を振りかざしますが、そのいっぽう“悪ガキとして評判だった”という悪童伝説もあります。権威に楯突くところがあるんですね。例えば中国の習近平(68)のように権威主義一辺倒だと、シンパシーの余地がないんです」
またプーチン大統領には秘密警察・KGBのスパイだったという過去や、柔道の有段者という一面もある。
「日本のアニメや漫画は、戦争や格闘ものといった“戦闘サブカルチャー”がたくさんあります。日本人の多くは“戦闘サブカルチャー”に親しみを覚えながら育ってきた上に、柔道は日本発祥のもの。親近感を持ちやすいんですね。
また、親近感には“コミカルさ”も重要です。プーチン大統領はカレンダーで半裸になったり、動物に乗ったりとコミカルに映るところがあります。もともとの親近感にくわえて『ものすごく力を持っている怖い人。でも、結構面白い』というイメージも付きやすく、ネタにしやすかったのだと思います」