■チャットアプリ内で青少年を守るためには
現在、韓国で青少年と成人が接触可能なランダムチャット・アプリは200個以上ある。2019年、女性家族部の研究者らが未成年女性を装いランダムチャット・アプリを通じて2230人とチャットした内容を分析した結果、青少年に対して出会いを求めるなど性的目的で会話するケースが76.4%(1704人)に達することが明らかになった。
私たちが直接アプリを入れて実態を確認した結果、チャットの状況は数年前と変わりがなかった。チャットの相手はやはり「15歳ならいいだろ」「アダなの~〔「アダ」は日本語の「新しい」に由来し、性体験がないという意味〕」などと発言していた。こうした状況を防ぐために必要なのが「おとり捜査」だ。おとり捜査は大きく2つに分類できる。単に犯行の機会を与える「機会提供型」と、犯行の動機や意図のなかった者に犯行意図を持たせる「犯意誘発型」だ。韓国では機会提供型が限定的に許容されている。
たとえば、警察官が泥酔したふりをして道端に横たわり、財布を盗むよう誘導したり、嘱託殺人の偽装広告をネット上に載せて依頼者をおびき寄せるのは、機会提供型だ。一方、わざと道に携帯電話を落としておき、それを拾った人に交番に届けずに自分に売ってほしいと唆すのを犯罪誘発型という。問題は、現実に起きる犯罪はこうした事例のように簡単ではないという点だ。時とともに犯罪手法は進化する。現在限定的に許容されている「機会提供型」だけでは、犯罪手法の変化に対応して犯人を検挙するのは難しいということだ。
すでに多くの国でデジタル性犯罪に関するおとり捜査を許容しているが、韓国ではいまだに激しい議論がある。おとり捜査で犯人を検挙して起訴しても、それは刑事手続きに問題があると言われてしまうのだ。たとえば、15歳の少女を名乗って「泊まる場所を探しています」とチャットルームに書き込んだとしよう。すると、これは「犯意」を誘発するため違法になる。善意の者の犯意を誘発したというわけだ。つまり、現在の韓国法では成人が子どもに不適切な感情を抱くことを未然に防げず、被害が発生するのを待つのと同じことになる。
児童・青少年を保護するためにも、ぜひとも性犯罪に関するおとり捜査を導入すべきだ。これまで性犯罪は、問題が発生してからその対応に追われていた。今回も同様だった。将来、もう1つのn番部屋事件の発生を防ごうと思うなら、未然に犯罪を防ぐための法律を作らねばならない。
【PROFILE】
追跡団火花(ついせきだんひばな)
プルとタンからなる匿名の大学生2人で構成された取材チーム。「n番部屋事件」の最初の報道者。記者志望の一環として参加した「真相究明ルポ」コンクールの応募準備のなかで「n番部屋」の存在に気づき、潜入取材を開始。韓国市場最大規模のデジタル性犯罪としてその実態を暴いた。YouTubeやInstagramをはじめとしたSNSでデジタル性犯罪の実態を伝える活動をしている。
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