■“陛下の懸念”に憲法違反との指摘も
だが、国民を第一に考える陛下のメッセージは、一部から強い批判を浴びている。読売新聞は「宮内庁長官発言が波紋『陛下、五輪懸念』政治利用の恐れ」との見出しで、「宮内庁長官が政治に絡む天皇の思いを公にするのは、問題で越権行為」という憲法学者の見解を報道した。
「陛下ご自身も憲法違反との批判を受けることは十分に承知されていたでしょう。それでも、ご懸念を伝えることを決意されたのです。開会式まで3週間を切りましたが、7月3日時点で開会宣言を読まれるかどうかもあいまいなままです。これは異常な事態であり、陛下の強いご意志を感じます。ただ、政府やIOCとの駆け引きはまだ続きます。両陛下の開会式への出席以外にも要人との面会を政府は要請してくるでしょう。とくに語学とコミュニケーションに長けた雅子さまに政権は期待しているはずです」(宮内庁関係者)
海外は陛下の“異例の懸念”をどう見ているのか。海外王室に詳しい多賀幹子さんによると、
「イギリスのエリザベス女王もこれまでは言い訳や文句を言わない姿勢を貫いてきましたが、メーガン妃による王室批判に直面してからは、間違いは正していくという考え方に移行してきています。そういった背景もあってか、今回の天皇陛下の懸念も海外の報道では否定的な捉え方はされていません」
西村長官が「天皇の政治利用」などと批判を受ける一方で、菅総理は皇室利用に躊躇がない人物として知られている。
’13年9月、東京五輪の招致を目指していた安倍政権は、高円宮妃久子さまのIOC総会出席を要請。宮内庁は安倍政権からの要請に応じたものの、「皇室の政治利用になる」との懸念も強く、当時の風岡典之長官は「苦渋の決断をした。両陛下(現在の上皇ご夫妻)も案じられていると拝察する」と発言した。風岡長官は西村長官と同じく、「拝察」という言葉で上皇ご夫妻のご懸念を伝えたのだ。