■「ひらがなの多い短文が望ましい」
そして行き着いた結論が「小学校国語の教科書」だった。上皇陛下は学習院初等科6年生のとき、美智子さまは国民学校5年生のときに終戦を迎えられている。お二人が読まれていた教科書は、軍国主義的な要素が強く表れている。
上皇陛下が6年生当時に読まれていた『初等科國語 八』を開くと、シンガポール陥落について言及した章や、日本軍の快進撃をたたえる内容が多数記されている。しかし上皇ご夫妻は、あえてそれらをお読みになられているというーー。
「軍国主義を褒めたたえる内容であっても、避けることはせず、あえてそのままお読みになって、当時の社会情勢などについても語り合われているそうです。
また、上皇ご夫妻はひらがなばかりの低学年の教科書から、漢字が増える6年生のものまで、通してお読みになっているとも聞いております」(前出・宮内庁関係者)
上皇ご夫妻が続けられている音読の習慣について、認知症予防を長年研究し、脳内科医で加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳さんは、こう解説する。
「思い出すという行為は、脳の海馬という部分が関わっていて、ここを使うことで、認知機能の低下を予防することにつながります。小学校の教科書を音読することは、新しい短期記憶だけではなく、昔の長期記憶の両方を循環させることができます。
当時の出来事や感情など、思い出しやすい強い記憶であればあるほど、より脳の活性化が期待できるといえます。記憶を呼び起こす目的であれば、難しい長文よりも、印象深く記憶しているひらがなの多い短文などをじっくり読むほうが、より望ましいでしょう。
そもそも音読は、認知症の方だけではなく、子どもや高齢者にとって脳の認知機能に働きかける作用があるとされています。また、口の周りの筋肉を動かすために嚥下性肺炎などの予防にもつながり、声によって聴覚も刺激されるので、聴覚機能の維持にも役立つ側面もあります」
上皇ご夫妻は、ともに戦中は疎開生活を経験されているが、つらい思い出ばかりではなかったようだ。10月初旬に、美智子さまと電話で話したという古い知人はこう明かす。
「先日お話ししたときは、当時は交流がなかった男子生徒のことまで話題になって、2人で笑いながらお話しさせていただきました。お話しするときは、国民学校時代のことに話が及ぶことが多いです。美智子さまは同級生の氏名をしっかりと覚えていらっしゃって、お話ししていると私もとてもうれしくなってきます」
上皇陛下が生物学研究所にお出かけされるとき以外、常にお側にいらっしゃるという美智子さま。これからも楽しみながら、上皇陛下との“毎朝の音読”を続けていかれるーー。