新春恒例の宮中行事である「歌会始の儀」。1月19日に皇居・宮殿「松の間」で行われ、今年のお題は「和」だった。
《広島をはじめて訪ひて平和への深き念ひを吾子は綴れり》
雅子さまは、平和を希求する強い願いを文章で表した愛子さまを感慨深く思うお気持ちを詠まれた。愛子さまは学習院中等科の修学旅行で広島を訪れ、原爆ドームや平和記念公園をご見学。戦争や原爆被害の悲惨さに衝撃を受けられ、平和の大切さを作文に綴られていた。
愛子さまは学業優先のため歌会始を欠席されたが、雅子さまは御歌が紹介される際には和やかな母の表情に。日ごろから平和を願う雅子さまならではの御歌だった。
いっぽう陛下は、全国各地で出会われた人々の笑顔に接し、心が和まれたお気持ちを詠まれていた。
《をちこちの旅路に会へる人びとの笑顔を見れば心和みぬ》
皇太子時代を含め、これまで全ての都道府県を訪問されてきた陛下。即位後は雅子さまとご一緒に、オンラインを活用しながら地方へのお出ましを続けられている。人々とのふれあいを喜ぶお気持ちを詠まれた御製が披露されたが、実は陛下も平和について詠まれていたというのだ。
「実は、天皇陛下も平和についてのお歌を作っておられました。ただ、私のところに両陛下のお歌が届いたときに、皇后さまのお歌が素晴らしく、それを活かしたいと思いました。
そうしたことから私は陛下に、『平和についてのお歌は皇后さまにお譲りになってはいかがでしょうか』とお伝えしたところ、陛下は喜んでお譲りになることを決められてくださりました」
こう明かすのは、2004年から歌会始の選者を務めている京都大学の永田和宏名誉教授だ。永田さんは歌人として、長年にわたって両陛下をはじめ和歌を詠まれる皇族方の相談役を務めている。
永田さんは、陛下が歌会始で披露された御製についても「非常にいい歌だと思うのです」と絶賛する。とりわけ今年は、元日に巨大地震が発生し、能登半島に甚大な被害をもたらした。被災者を案じていた陛下は、歌会始が終わった午後、石川県在住の入選者に「大変でしたね」と地震を気遣うお言葉をかけられていたという。
これまでも被災地訪問を続け、人々に心を寄せられてきた陛下。歌会始で披露された御製にも、そうした思いが伝わってきたという。永田さんは、陛下のお気持ちをこう拝察している。
「天皇陛下は皇太子時代も含めるとすべての都道府県に足を運ばれ、即位されてからも各地のご訪問を続けておられます。特に今年は、1月1日に石川県で大きな地震が起きました。災害に遭われて困難な状況にある人を訪ねることを、陛下はとりわけ大切なこととして捉えているとお見受けしています。
しかし、そうした人々を心配しながら被災地に行かれるということは、“どのように声をかけるのか”というように、陛下といえども非常に強いストレスをお感じになっているように思えるのです」
その上で、歌会始の儀で披露された御製について、永田さんはこう続ける。
「陛下は、そうした旅先で笑顔を見せてくれる人に出会った時に、“本当に自分の心が和む”という歌を詠まれています。これは私も陛下にも申し上げましたが、陛下の御製が、これまでに出会った人たちへの感謝や非常に大きなエールを送ることに繋がっているのです」
天皇陛下の御製はエールとなって、多くの国民の心を温めてくれる――。