テッポウユリ、トルコギキョウなどの花束を持ち、天皇陛下と雅子さま、そして愛子さまが霊殿前に立たれている。お三方は供花ののち、深々と拝礼された。
戦後80年の今年、ご一家で臨まれている戦争の記録や記憶を次世代に受け継ぐ“記憶継承の旅”。10月23日、天皇ご一家は東京都慰霊堂を訪問されていた。
「東京都慰霊堂は、関東大震災や、一夜で約10万人が犠牲となったとされる東京大空襲の犠牲者の遺骨を納めて祀る都の施設です。天皇ご一家は供花と拝礼ののち、犠牲者の遺族らのお話に耳を傾けられていました」(皇室担当記者)
懇談した田中洋子さん(82)は、東京大空襲で父親を亡くしている。田中さんはこう振り返る。
「私の体験をお話しすると、皇后さまと愛子さまは『大変でしたね。ご苦労なさったんですね』とおっしゃってくださいました。天皇ご一家は、次の世代に戦争の記憶が語り継がれていくよう、一生懸命にがんばってくださっています。遺族として、国民の一人として、これからも応援差し上げたいです」
日本と世界の平和を希求するため、おつとめのなかで模索し、実践される日々を過ごされている両陛下と愛子さま。
ご一家での東京都慰霊堂ご訪問に先立つ2日前、憲政史上初となる女性の内閣総理大臣が誕生した。高市早苗首相の就任に至るまで、26年続いた自民党と公明党の連立が解消されるなど、永田町は激動のなかにあった。
「首相指名選挙の前日、自民党は日本維新の会と連立合意を結びました。連立政権合意書には、皇室が直面する問題に関する文言がありましたが、保守的な両党の方針が鮮明になった内容でした」
こう話すのは宮内庁関係者だ。その合意書の一節には、
《「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」案を第一優先として、’26年通常国会における皇室典範の改正を目指す》
と、今夏までの通常国会で行われていた皇族数確保のための議論のなかで、自民党と日本維新の会が主張していた旧宮家の男系男子の養子縁組案が強く打ち出された内容が記されていたのだ。
「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できるようにする案と、旧宮家の男系男子に限り養子縁組ができるようにする案の2つを軸に、皇室典範改正を進めることが与野党間で合意されています。
しかし女性皇族の身分保持案については、配偶者とその子を皇族とするかどうかで対立。養子縁組案も、立憲民主党は“対象者の有無や意思の確認が不十分で、かつ法整備の根拠が不明確だ”と慎重姿勢をとったままで、現在に至るまで溝は埋まっていません。
今後の国会論戦では、自維政権が“第一優先”とする養子縁組案をいっそう押し出す展開が予想されます」(前出・皇室担当記者)
だが皇族数の減少という皇室存亡の危機に対して、危機感が欠けていると指摘するのは、神道学者で皇室研究家の高森明勅さんだ。
「そもそも皇室典範改正に言及しながら、養子縁組案だけ挙げ、内親王や女王が今後も皇室に残れるような方策についてふれられていないのは、皇室の存続そのものが危ぶまれる現状に対する危機感が伝わってきません。
養子のなり手が現れるかも不明な現実味のない合意でしかありません。本来皇室の存続のためには、未婚の女性皇族が結婚後も皇室に残られることで、皇族数が減らないような方策を最優先すべきなのです。
皇統の安定のためには女性天皇や女系天皇を認めなければ、問題の根本的な解決にはなりません。いま国民の敬愛を集めている天皇ご一家を中心とした皇室があるのですから、それを受け継げるような制度が求められます」
メディア各社の世論調査で、内閣支持率が71パーセントと、歴代5位の高さで好スタートを切った高市政権。新首相はどのような方針で、皇室の危機に臨むのか。
