image

 

「毎日の食卓をより豊かに」という理念でスタートし、今年で60周年をむかえる『きょうの料理』(NHK Eテレ・月〜木曜21時〜21時25分)。記念すべき最初の放送は昭和32年11月4日、当時は10分間(現在は25分間)の生放送だった。

 

「経済成長や生活スタイルの西洋化により、日本で次第に核家族化が進んでいきました。そのなかで西洋料理を紹介しつつ、 “おふくろの味”を伝える役割を担ってきたのがこの番組です。時代とともに紹介する料理も変わってきます」(前シニアプロデューサー・大野敏明さん)

 

時代のニーズと世相を反映した献立は、年代ごとに特徴が出ている。

 

昭和30年代は、戦後の食糧難から欧米の生活スタイルが憧れられた時期で、西洋料理が家庭向きにアレンジされたメニューが中心(例・ナポリ風のスパゲティ)。昭和40年代になると、一流のシェフのレシピのほか、「おせち料理」など、食の基本に立ち返った料理が取り上げられるように(例・麻婆豆腐)。

 

昭和50年代には、「成人病」(当時)という言葉が生まれ、生活習慣病対策を意識した食事の企画が支持された(例・成人病予防の牛肉酢じょうゆづけ)。昭和60年代から平成の現在は、忙しい人のための「スピード料理」が多く登場。平成以降は特に、充実した外食もあり家庭料理離れが進むなか、手作りの楽しさや伝統的和食の知恵などが紹介されるようになってきている(例・ちらしずし)。

 

「材料の基本も、放送当時は5人分。昭和40年代は4人分に、そして平成21年からは2人分へと変化してきました」(大野さん)

 

親子2代で番組に出演している料理研究家の土井善晴さんは、父・勝さんの時代との違いをこう分析する。

 

「父の時代は見た目を気にする側面が強くて、煮物であれば煮崩れない工夫を教えていましたが、私は煮崩れて何が悪いんだと思います。作る人の気持ちに寄り添わないと、家庭料理がなくなってしまう。主婦の方がよく『失敗した』と言いますが、料理に失敗はない。完成したものが料理ですから。日本はできあがりの味にこだわるあまり、作り手が味つけに負担を感じてしまっている気がします。味というのはぼんやりしていていいんです」

 

番組は1度リハーサルをして、24分半の放送時間に収まるよう打ち合わせをした後に本番撮影となる。編集はいっさいなし! 土井先生が、「体内に時計が入っているのでは」と評するのが、18年にわたって進行役を務める後藤繁榮アナウンサーだ。いまも料理はどちらかと言えば苦手という後藤アナは次のように語る。

 

「この番組が歩んだのは、食卓に夢を提供してきた60年だったのかなと思います。これからも、料理は苦手といわずに、後藤でもできるおいしくするポイントや、料理の楽しさを伝えていけたら」

 

放送スタート時の理念をそのままに、これからも『きょうの料理』は、日本の食卓を映す鏡であり続ける−−。

関連カテゴリー:
関連タグ: