「一生のうちに、1つのお弁当箱にこれだけたくさんのおかずを詰めることなんて、ほとんどの人はないと思います。これは現実的ではないんです――」
自らの作る「チオベン」をこう語るのは、料理人の山本千織さん。チオベンとは、テレビや雑誌の撮影現場にロケ弁として登場するや、その味と美しいスタイリングに感銘を受ける女優やモデルが続出し、マスコミから広がった話題のお弁当だ。
この夏、コトラボ主催の料理教室「チオベンを作ろう」を開催したところ、受講者たちは、「同じようにできた!」と大喜び、ほとんどの人はその場で食さず、「家族に見せたい」「あとでインスタグラムにアップしよう!」と大切にテークアウト。
生みの親である山本さんは、北海道生まれ。海の幸が豊富に取れる内浦湾沿いの町で生まれ、5人きょうだいの長女として、幼いころから母親の炊事を手伝っていたという。
「自営業で、広い台所があり、いつも母は手際よく、大家族のためのご飯を作っていました。大勢の手があり、卵に絡める役目、衣につける役目、といった流れ作業でコロッケなどのお総菜を揚げていた光景を覚えています」
現在のチオベンも、多い日は200食作る。料理の段取りのうまさは、幼いころの原風景にあるようだ。山本さんは美大を卒業後に結婚、その後料理店を開く。
「オープン当初は夫が調理で私がサービスを担当しましたが、1年半くらいで、夫が帰ってこなくなって(笑)。私が厨房に入ることに」
しばらく営業を続けたものの、一人ではさすがにヘトヘトになり終止符を打つことに。その後、ほかの店を手伝う期間を経て上京、代々木上原に居を構えた。転機が訪れたのは’11年のこと。
「夜だけバーをやっているお店のマスターが、『ランチタイムは空いているから、使ってもいいよ』と提案してくれたんです」
ここで、そのマスターから運命の一言が。
「お皿があんまりないから、弁当箱にでも詰めたら?――」
山本さんは悩むこともなく即断。一度決めたら、深く考えずに行動するほうだという。
こうしてスタートしたチオベン。代々木上原という土地柄、雑誌の編集者やフリーランスの人たちが多く訪れ、「過酷な撮影現場を癒してくれそう!」と撮影現場からロケ弁のオーダーが増えていき、現在のスタイルに。SNSの普及で、「チオベン」の名はますます拡散されていった。
テレビの企画で山本さんにお弁当作りを教わった蛯原友里は「チオベン大好き!」とすっかりファンになり、小雪も「一度食べたら忘れられない味」と絶賛するなど、名だたる有名人がチオベンの虜に。
4月に発売された2冊目のレシピ本『チオベンの弁当本』(KADOKAWA)には、本の帯に、タキマキことモデルの滝沢眞規子が《私がロケ弁でリクエストするのはいつもchioben!》とメッセージを寄せた。