親が認知症になってしまうと、ただでさえ大きな精神的ショックを受けるものだが、じつはお金の面でも「財産凍結」という衝撃的な事態が起こってしまうのだ。老親が健在なうちにしっかり対策を取っておこうーー!
「高齢者が保有している財産が、本人の判断能力の低下によって使えなくなる、動かせなくなることを、財産の『凍結』といいます。具体的には、預貯金の引き出しができなくなるほか、定期預金の解約、株式や投資信託などの売却も難しくなります。不動産の売却やリフォームも同様です。こうした凍結は認知症に限らず、脳梗塞や事故の後遺症などによって判断能力を失ってしまったケースでも起こりえます」 そう語るのは、『親の財産を“凍結”から守る認知症対策ガイドブック』(日本法令)の著者で、司法書士法人ミラシア、行政書士法人ミラシア代表社員の元木翼さん。
「銀行口座が凍結されてしまい預貯金が引き出せない」「定期預金を解約できない」といった「財産凍結」の備えには、金融機関が発行する「代理人カード」が、簡単かつ低コストな選択肢だという。
「子どもが親のキャッシュカードを預かり、暗証番号を聞いてお金を引き出すことは、基本的には認められていません。とにかくコストを抑えながら簡単に備えたいという人は、金融機関で『代理人カード』というキャッシュカードを発行してもらうといいでしょう。1枚、1,000〜2,000円程度で発行してもらえます。カードが使える人は生計を一にする親族、または2親等以内など、金融機関によって異なります」(元木さん・以下同)
子どもが親と離れて暮らしているので直接世話ができない、または金銭管理は専門家に任せたいというときは、「財産管理委任契約」や成年後見制度の「任意後見」を利用するケースがある。
「『財産管理委任契約』は自分の財産が管理できなくなったときを想定して、財産の管理を子どもや第三者に委ねる契約のこと。ただし、契約時に公正証書の作成や裁判所の手続きが不要で、監督制度も不十分であるため、判断能力低下後は、成年後見制度を利用することが望ましいとされています。そのため、身体的な衰えで財産管理ができなくなったときの備えとして『財産管理委任契約』を結んでおき、その後、判断能力が低下してしまったら『任意後見』に移行するというように、2つセットで契約するケースが多いです」
任意後見は、事前に選んだ後見人が、判断能力の低下後、生活に関わる手続きや金銭管理を代行できる制度。預貯金引き出し時の証明は不要だが、家庭裁判所が選んだ任意後見監督人に定期的に使途を報告する義務がある。
「任意後見監督人は家庭裁判所が決めますが、弁護士などの専門家が選ばれるケースが大半。公正証書の作成を含めた初期費用は専門家に依頼すると約10万円。判断能力の低下後、家庭裁判所に申立てする際に約5万〜10万円、収入印紙や郵送費など、約5,000円が別途かかります」
さらに任意後見は、法定後見と同様、親が亡くなるまでやめられないので、後見人(専門家が後見人の場合)と任意後見監督人への報酬が継続的にかかってくることに。報酬の月額の目安は、後見人が約3万〜5万円、監督人は約1万〜3万円。
第三者に金銭管理を任せたい場合は、日常的な金銭管理(公共料金の支払いや預貯金の管理)や見守りを代行してくれる「日常生活自立支援事業」を使う方法もある。申込み先は市区町村の社会福祉協議会で、利用料は月額1,000〜3,000円と低コストで済む。最近では「信託銀行の認知症対策サービス」もあり、一定金額を預けると、入院・介護費用などの支払いを代行してくれる。