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(写真・神奈川新聞社)

川崎市幸区の老人ホームで入居者3人が転落死した事件は、最初に死亡した男性に対する殺人容疑で元職員の男(23)=横浜市神奈川区=が逮捕されてから22日で1週間となった。これまでの供述からは殺意に結び付く動機や人目を盗んだ犯行様態などが浮かび上がったが、目撃証言や防犯カメラ映像など物的証拠が極めて乏しい状況は変わらぬままだ。殺人事件を前提とした捜査の進展には、供述を裏付ける証拠の積み上げが求められる。

■複数の動機
「入浴を度々拒否された」「以前から煩わしい人だと思っていた」。元職員の男は県警の調べに対し、最初に転落死した当時87歳の男性について、こういった趣旨の供述をしている。

男性は要介護3で認知症を患っており、突然大声を出したり怒りだしたりすることがあったとみられる。幸署捜査本部は、男が日々の業務で男性に接する中で、一方的に不満やいらだちを募らせたことが動機の一つとみている。

また、男は介護の仕事そのものに対するストレスがあったとも供述している。同施設などによると、当時は約80人の定員に対し当直勤務は3人。午後4時に出社して翌日午前10時に退社する勤務が月3~5回だった。

男は転落死が発覚した昨年9月、「当直中は人が足りない。ナースコールは多い日で100件ほど鳴るので忙しい」などと話していた。

■当日の行動
男は「犯行はこの日の勤務中に決意した」と供述。事件当日も男性が言うことを聞いてくれないなどの出来事が引き金となり、犯行に突き進んだ可能性があるとみられる。

当直の1人が休憩中など人目につかない深夜から未明の時間帯を選び、「殺害するつもりで部屋に入った」。寝ていた男性を起こして無理やりベランダに連れ出し、4階のベランダから強引に投げ落としたといい、「ベランダで2人だった。殺害するつもりでやった」と、明確な殺意があったことを認めている。

一方、転落した男性の第1発見者を装い、救命処置を施していたことも判明。捜査本部は関与を疑われないための偽装工作だったとみている。

■供述裏付け
転落死があった介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」は完全個室で、「普通の生活の実現」をコンセプトに掲げている。当時、監視カメラは1階玄関と2基のエレベーター内の計3台あったが、居室や廊下、階段には設置されておらず、男が犯行に及んだとされる403号室の映像は残っていない。

また、同室は正面玄関と反対側の位置にあり、約15メートル下の敷地裏庭は植木や住宅で視界が遮られる「死角」のような場所。転落死直後は事故と事件の見極めが難しい「変死」とされ、遺体は司法解剖されずに火葬されている。

捜査本部は19、20日にあらためて現場検証をするなど慎重に供述の裏付けを進めているが、犯行の決め手となる物的証拠は極めて少ないのが実情だ。

「私は誓ってなにもやっていない」との説明が一転して「投げ落とした」と認めたことによる逮捕。捜査関係者は「非常にセンシティブな事件。まだ逮捕しただけで、これから(有罪に向けて裏付けを)頑張らないといけない」と話している。

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