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(写真・神奈川新聞社)

 

かつて街灯が消えた街に、歌と笑い声が響く。藤沢駅から程近い「藤沢南口らんぶる商店会」。飲み屋やレストランが軒を連ねるネオン街に、ギター一本で歌い歩く「流し」が復活した。街のにぎわいを取り戻そうと、同商店会が企画。初日の10日、昭和の郷愁あふれる風景に、人々は酔いしれ、笑い、涙した。

 

日暮れとともに軒先に明かりがともる。ビールの乾杯音、焼き鳥の煙…。男女が談笑している店内で突如、軽快なギターのメロディーが響く。「こんばんは~♪平成流しです♪」

 

登場したのは、パリなかやまさん、結海(ゆうみ)さん。懐かしの場面の再現に白髪の男性が叫ぶ。「待ってました!」。1曲目のリクエストは「上を向いて歩こう」。誰もが知る名曲の大合唱が始まり、店内は温かい雰囲気に包まれた。同商店会の小栗誠会長がほほ笑む。「お客さんの喜んでいる姿を見るのが一番の幸せです」

 

高度経済成長期は“花街”として栄えた藤沢駅周辺。同商店会も活気にあふれ、かつては200店舗が加盟した。しかし、バブル崩壊、長引く不景気でかつての名店は次々と姿を消し、会員数は45まで落ち込んだ。数年前には街路灯を点灯させる資金も底を突き「街は真っ暗になった」と小栗会長は振り返る。

 

街のにぎわいを取り戻せないか-。思い悩んでいたとき、出会ったのが「平成流し」だった。「多くの人が一緒に歌い、最後は大合唱する姿を見て『これだ』と」。まちづくりアドバイザー西川りゅうじんさんも、「無機質の世の中で人と人とをつないでくれる。流しは、温かみのある存在」と、昭和歌謡のもたらす効果に期待を寄せる。

 

パリなかやまさんが立ち上げた「平成流し組合」は10人ほどが加盟し、都内を中心に活動。藤沢“初登場”の10日は、2人で10店ほどを回った。最後は、送別会の席。小栗会長は「店中で大合唱になった。当事者の方が泣かれる姿に、涙してしまった」と振り返る。

 

藤沢での流しは31日も開催し、4月以降も継続していく考えだ。小栗会長は言う。「人と人とがつながる。そんな場所をこれからもつくっていきたい」

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