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(写真・神奈川新聞社)

 

石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」、植木等の「スーダラ節」など、昭和歌謡の名曲を高齢者介護施設で入居者とともに歌う活動に取り組んでいる男性がいる。懐かしのメロディーに昔を思い出し、参加者の声が弾む。

 

横浜市栄区にある高齢者介護施設のレクリエーション時間。入居する63人のうち、最高齢の94歳の女性を含めた40人ほどが車いすを使い集まる。平均要介護度は日常動作の一部に手伝いが必要な2.47。配られた歌詞カードを落としても気付かない人もいる。

 

チン、トン、シャン。軽快な三味線の音がフロアに響く。じっと座っていた参加者たちが、思い出したように歌詞に目を落とした。大阪の野崎観音に参拝に向かう情景を東海林太郎が歌った「野崎小唄」は1935年の流行歌。「いち、に、さん。はい」と声を掛けると、89歳の女性が体を揺らして口ずさむ。「すごいはやったよね。おばあちゃんまで歌っていたよ」と少女だった日をまぶたに浮かべ、楽しそうに笑った。

 

懐メロを流しながら、逸話を披露するのはレコード会社に30年勤めた経歴を持つ浜崎克俊さん(65)=横浜市金沢区。関連会社を経てことし5月にリタイアした後、音楽を生かした仕事をしようと、飛び込みで施設を回っている。

 

■「皆さんタイムスリップして聴いてください」

 

「赤城の子守唄」(34年)を歌った後は、「曲ができた年は、東京・渋谷に忠犬ハチ公像が設置されました。覚えていますか」と呼び掛ける。「野崎小唄」の合唱後は、「駅弁の車内販売が始まった年でした。幕の内弁当は30銭、寿司は20銭でした」と続ける。うなずく参加者。「小学校に入学した年だわ」。話す声が弾んでいる。

 

浜崎さんは子どもの頃から歌謡曲が好き。就職後、アイドルから演歌、洋楽、落語やお経のカセットまでほぼ全ジャンルを手掛けた。その強みを生かしてお年寄り向けにと考えた企画は、30年代から64年の東京五輪までの約30年間に流行した曲を全22回で紹介する壮大なものだった。

 

施設では、フルートやピアノなどの奏者を招いて五感を刺激しする音楽療法を取り入れているところも多い。2カ月に1度、浜崎さんの講座を行うことを決めた施設の責任者は「演奏会を1時間やると途中で飽きる人もいるけれど、浜崎さんの会話は経験に基づいているので面白い」と話す。

 

参加者は「若い頃を思い出したよ。ありがとう」と拍手。「また一緒に歌いましょう」と頭を下げた浜崎さんは、20歳以上も先輩の男性から「ここにいる人よりも先に死んじゃダメだよ」と声を掛けられていた。訪問講座は随時受け付けており、問い合わせは浜崎さん・電話090(8944)6667。

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