(写真・神奈川新聞社)
年齢的にも経営を続けるか、廃業するか悩んでいます-。台風18号の影響で高さ約20メートルの煙突が倒れた相模原市中央区並木の銭湯「並木湯」。まきを燃料に使ってじっくりと加熱していることが利用客に評判で1日平均約60人が訪れていた。一人で切り盛りしてきた出口輝江さん(75)は、けが人がなかったことに安堵(あんど)しながらも、突然の出来事に苦悩していた。
リーン、リーン。無人の脱衣所に置かれた水槽で飼育しているスズムシの声が響いていた。げた箱は木製の札が鍵、男湯の壁面には富士山の絵が裾野を広げる。昭和の時代を思い出させる昔ながらの銭湯だった。
「内部の設備だけなら、あと何年かは続けることができると考えていたんですけどね」と出口さんは語る。
市緊急対策課によると、煙突が傾いたのは18日午前1時50分ごろ。市消防局の観測では、直前の市内の最大風速は27.4メートルだった。出口さんは午前0時すぎに就寝後、近所の人からの「煙突が傾いている」という電話連絡で初めて気付いた。煙突はその後、隣接するアパートの屋根に接触し、同日午前11時半ごろ撤去。住民が一時避難した。
1980年に開業。煙突も同じ歳月を重ね37年になる。経営してきた夫(83)は高齢のため、最近では出口さんが切り盛りしてきた。大人470円。毎週金曜日の定休日以外、ほとんど休まず営業してきた。
8月下旬から雨漏り、トイレの漏水と立て続けに修理を済ませた直後の煙突倒壊だった。自らの年齢を踏まえると高額と予想される設備投資はためらいがある。だが、19日も常連の男性客が「まきで営業している銭湯はここしかないんだから」「やめないでくれ、カンパするから」と相次いで声を掛けてくれた。そんな声を聞くと、気持ちは揺れる。「慣れた仕事だから続けたいけど、(年齢的に)先が見えていますからね」と結論は出せない。
併設するコインランドリーで洗濯していた男性(65)は「午後3時の開店に合わせ4~5人が並び、夕方になると仕事帰りの職人たちが汗を流しに訪れる。みんな楽しみにしていますよ」と話した。