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日本でただ一人、ろう通訳士の資格を持つ川上恵さん
(写真・琉球新報社)

4月から手話言語条例が施行され、コミュニケーション手段としての手話にあらためて注目が集まる中、県内の女性が手話通訳の専門的な訓練を受けた「ろう通訳士」として活躍している。沖縄聴覚障害者情報センターに勤める川上恵さん(40)=宜野湾市=は、2014年、全米手話通訳者登録協会(RID)のろう通訳士の資格を国内で初めて取得した。現在でも同資格の有資格者は国内でただ一人だ。米国で通訳の現場を経験し、15年7月にはトルコで開催された世界手話通訳者会議で通訳として壇上に立った。

 

川上さんは生まれつき耳が聞こえない。両親を含め、ろう者の家庭で育った川上さんの第1言語は日本手話だ。小学校から高校までは普通校で口話の授業を受けた。「情報が十分に入ってこないため、本当に大変だった」と振り返る。いつも心のどこかに「もっと学びたい」との思いを抱えていた。

 

大学で英語を専攻し、卒業後は8年間、銀行に勤めたが、知識を深めることへの渇望は拭いきれず「手話で十分に学べ、情報が保証された場所で勉強したい」と手話を用いた教育で世界トップレベルにある米国に渡ることを決意した。

 

奨学金を取得し、全授業を米国手話で行うワシントンDCのギャローデット大に入学。学部と大学院でろう者の文化、翻訳や通訳の専門知識を学び、ろう通訳の徹底した訓練を続けた。

 

大学院卒業後、約1年間、米国で学会通訳など、多くの現場を経験し、ろう通訳士の資格を取得した。

 

米国での経験で気付いたのは、聞こえる通訳者と、ろう通訳士が共に働くことの大切さだ。

 

川上さんによると、聞こえる手話通訳者は、健聴者とろう者の交流に不可欠だが、手話を第2言語として学ぶため、細かいニュアンスを理解するには限界がある。そこで、ろう通訳士の役割が必要になる。「手話を第1言語とするろう通訳士は、ろう者が本当に言いたいことを理解でき、不安を取り除くことができる」と語る。

 

特に裁判所や医療の現場では、少しの誤訳や機微の伝え方の違いが、人生を大きく左右しかねない。ただ、日本では聞こえる手話通訳者がいれば十分との認識が一般的で、ろう通訳士の役割についての理解はまだまだ広がっていない。

 

ろう者の人権を守るため、聞こえる通訳と訓練したろう者の通訳の両方が必要だと考える。「ろう通訳士がいることで、情報が十分に保証され生活の質も向上する」。より多くのろう者が通訳として活躍する社会が実現することを願っている。(半嶺わかな)

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