沖縄の墓といえば亀の甲羅の形をした「亀甲墓」やまるで小さな家のような「破風墓」。そして墓の前に、親族が集える程のちょっとした広場がついているのが定番のイメージだろう。しかし沖縄県那覇市小禄の閑静な住宅街の一角にある墓地で、丘陵の傾斜に沿って視線を上げると、他とは明らかに趣を異にする墓にくぎ付けになる。凹凸にデザインされたコンクリートの外壁と、複雑に組まれた鉄パイプ-。彫刻家の能勢孝二郎さん(66)=浦添市=が家族のために昨年完成させた墓は、まるでSFの世界から飛び出てきたかのようだ。
能勢さんの父・秀一さんと母の徹子さんはともに2009年に他界した。生前「お墓をお願いね」と託されていた能勢さんは、せっかくなら既成のものではなく芸術家らしく趣向を凝らすことに。これまでも那覇市おもろまちの県立博物館・美術館の屋外展示「CONCRETE AND STEEL」など、コンクリートブロックや鉄を素材にした作品を手掛けてきた。今回の墓も一見奇抜だが、図面や模型など綿密に準備を重ね、抽象美術の要素が詰まっている。
数種類の形に切断して積んだブロックで“ひんぷん”を模し、内装は妻で彫刻家の裕子さんが淡い紫色で祈りの空間を演出する徹底ぶり。鉄骨や鋼板は亜鉛メッキを施してさびにくくし、強固な溶接で台風にも強い造りだ。
正面にはラテン語で「芝居は終わった」を意味する「ACTA EST FABULA」の文字が刻まれている。この墓でいう“主役”は実は、てっぺんと先端、敷地角の3カ所に植えられたソテツだ。能勢さんの両親は奄美大島出身で終戦直後に沖縄へ移り住み、那覇の自宅の庭にはソテツが植えられていたという。能勢さんは「古里の風景を思い出していたのかもしれない」と両親の思いを表現した。
両親と兄嫁、めいの遺骨が納められている墓。周辺にはコンクリート外壁のマンションや鉄塔が建ち、不思議と風景に溶け込んでいる。(大城周子)