常連客たちとユンタクを楽しむ仲村シゲさん(右)=6日、沖縄市安慶田の中乃湯
【沖縄】「今日もいいお湯だったさ」「ありがとうねー」-。常連客と店主仲村シゲさん(83)の人情味あふれるやりとりが、住宅街に聞こえてくる。1960年代初頭の最盛期には県内に300軒以上が林立した昔ながらの銭湯(ゆーふるやー)だが、今では「中乃湯」(沖縄市安慶田)しか残っていない。家庭用風呂の普及や燃料費の高騰で老舗は次々とのれんを下ろしたが、社交場としての沖縄の銭湯文化は、今もしっかりと息づいている。10月10日(1010=セントウ)は、銭湯の日。
脱衣所と浴室に仕切りのない風呂場、浴室の真ん中にある円形の浴槽。中乃湯には、県外の銭湯とは趣の異なるゆーふるやー文化が目に見えて残る。
開店は60年ごろ。シゲさんの夫・次郎さんが創業し、次郎さんが他界して以降はシゲさんが30年以上、女手一つで切り盛りしてきた。浴槽や床の掃除、ボイラーの管理、窓の修理。一人息子を養うため、必死で働いた。
県内の銭湯は燃料費の高騰や店主の高齢化で閉店が続き、2014年5月に日の出湯(那覇市泉崎)が店を畳むと、中乃湯が最後の存在となった。
それでもシゲさんが店を続ける理由は「仕事が好きだから」。16歳から洋裁や郵便局など幾つもの仕事をほぼ休むことなく働いてきた。「仕事をしていた方が落ち着く」と言う。
20年前から通う仲松政弘さん(64)=那覇市=は「昔は那覇にもたくさん銭湯があったけど、今はもうここだけ。銭湯が好きだから今でも仕事帰りに来るんだ」と笑顔を見せ、帰り際シゲさんに「200歳までやってよ」と声を掛けた。
入り口のベンチでは地元の人たちや常連客が話に花を咲かせる。シゲさんは「みんなに『お願いだからやめないで』て言われたら、私もやめたくないさ。まだまだ続けるよ」と豪快に笑った。
身も心も温まる県内唯一のゆーふるやーは、今日も入浴客を癒やしている。営業時間は午後2〜7時。定休日は木曜と日曜。
(長嶺真輝)