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都市計画の特例制度である都市再生特別地区に首都圏で初めて指定され、横浜市神奈川区の造船所跡地を開発したコットンハーバー地区に新たなマンション計画が浮上した。開発ルールを自主的に定め、横浜港への視線の広がりを重視した都市デザインで統一してきた先進的な地区だった経緯もあり、住民は「採光と眺望がさえぎられる。地区全体の秩序と居住環境が壊されてしまう」と反発。ただ、規制が大幅に緩和されたことがあだとなり、先行きが見通せない状況だ。

 

マンション建設を計画しているのは「クリオ」ブランドで知られる中堅の明和地所(東京都渋谷区)。同地区の中央に位置するスーパーマーケットの敷地面積約3600平方メートルを取得し、スーパーを取り壊した上で高さ約31メートル、11階建て165戸の分譲マンションと物販店を建設する。

 

計画地は、250世帯が入居する38階建ての高層マンション「コットンハーバー マリナゲートタワー」(2008年完成)の南側に隣接している。新たなマンション建設によって生じる日陰のかたち「日影(にちえい)」を調べた結果、マリナゲートタワー8階以下の低層階で計34戸が日陰の影響を受けることが同社の住民説明会で明らかになった。このうち、4戸が終日、2戸がほぼ終日、5戸が半日以上、日陰になる。住民は「受忍限度をはるかに超えた、明らかな日照権の侵害だ」と訴える。

 

しかし、同地区の用途地域は工業専用地域で、周囲への日照を確保するために高さの制限などを定めた建築基準法に基づく「日影規制」の適用から除外されている。都市計画を所管する市建築局は「新たなマンションは日影を理由に規制を受けることはない」との認識を示す。

 

本来、工業専用地域は住宅を建設できない。ただ、造船所跡地を再開発する民間主導の事業が国の都市再生プロジェクトに選ばれ、都市再生特別地区として日影規制などの適用を除外した。そのため、用途地域を変更しないまま特例としてマリナゲートタワーなどの高層マンションが建設された。法律や条例に照らせば、今回の新たなマンションを建てる最低限の条件が整っていることになる。

 

一方で、同地区の開発を手掛けた事業者は、統一した自主ルールで再開発を行うために「デザインガイドライン」を策定した。この中で、地区全体に秩序を持たせつつ魅力的な空間を守るために「横浜湾岸への視線の広がりを重視した開発を行う」などと明記。マリナゲートタワーからは、現在は全ての住戸で横浜港を望むことができるが、新たなマンションが完成すれば低層階の南向きの全面と西向きの大半の住戸が眺望がさえぎられることになり、ガイドラインが守られないことになる。

 

ただ、ガイドラインはいわゆる事業者間の「紳士協定」で、仮に守らなくても罰則はない。まちづくりや地域の整備を所管する市都市整備局の担当者は「新たな事業者に対して、ガイドラインを理解して尊重してほしいという趣旨でお願いしている」と説明する。

 

住民は事業計画への許認可権を持つ市建築局に建設反対を訴えており、同社が示した開発構想に対する約250通の意見書や、約200通の再意見書を市に提出。これを受けて市は、市開発事業者調整条例に基づき同社と協議することにしている。

 

同社は神奈川新聞社の取材に「本件に関しては、当社からお話することはありません」とコメントしている。

 

◆コットンハーバー地区 横浜市神奈川区の山内埠頭(ふとう)で遊休化した浅野造船所跡地などについてJFE都市開発、野村不動産、三菱地所などの民間事業者が開発に携わった。約7万1千平方メートルの敷地に5棟のマンションを中心に商業施設や公園、住宅型有料老人ホームがあり、現在も再開発事業中。

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