沖縄県経営者協会女性リーダー部会での講演会後、インタビューに答える吉田晴乃BTジャパン代表取締役社長=2018年6月6日、那覇市泉崎の琉球新報社

 

「女性初の経団連役員」

 

「イギリス最大手の通信事業者BTグループの日本法人CEO」

 

「フォーチュン誌が選出する『World’s Greatest Leaders 50』で唯一の日本人」

 

華やかな経歴に負けない圧倒的なエネルギーと存在感を放つ経営者・吉田晴乃さん。変化が激しい時代にあって、経済成長の鍵となるのは多様性を認め合うダイバーシティーだと訴え、女性の登用や地位向上を目指す取り組みを続けている。シングルマザーとして娘を育てながら国内外でグローバルに働き続けてきた彼女が目指す「女性の登用」「働き方改革」とはー。

 

沖縄県経営者協会女性リーダー部会での講演のために6月6日に来県した吉田さんに「女性活躍」の狙いや現状、向かうべき方向性について聞いた。

 

◇聞き手・島洋子(琉球新報社編集局経済部)

 

吉田晴乃(よしだ・はるの)

BT(旧ブリティッシュ・テレコム)ジャパン代表取締役社長。米電子・通信機器メーカーのモトローラの日本法人に就職。1990年代にカナダに移住し、通信会社に入社。99年に渡米しNTTなど5社で働き、2012年から現職。女性初の経団連役員。政府の規制改革推進会議委員を務める。慶応大卒。

 

女性が“尻込み”する理由は「長時間労働」

 

ー吉田さんは「日本で一番活かしきれていない人材」を女性だと指摘されています。

 

世界中のあらゆる企業が、異なる価値観や発想を持つ人たちが集まるダイバーシティ(多様性)によって革新を生み、生産的活動につなげようとしています。女性活用もその一つです。

 

しかし日本の女性は仕事と家事の両立に悩んでいる。分担すべき男性も長時間労働です。

 

日本の現状を凝縮してまとめた動画があるので、ご覧いただきたいです。

 

 

ー企業の男性経営陣はよく「女性を登用しようとしても女性側が尻込みをする」と言います。

 

長時間労働が問題です。ダイバーシティーを推進するには三つのコアがあります。

 

一つはトップリーダーの意志です。

 

二つ目はテクノロジーを使って働き方改革をしなければならない。家庭という物理的な縛りがある中で、日本企業のように長時間労働を強いられたら、母親としては難しい。だったらそれをつなぐ新しいイノベーションを使うべきです。

 

女性が社会進出したのは家電などによる家事からの解放が大きい。オフィスでもその改革はできます。テレワークが進む今、在宅勤務はその一例です。でも日本企業はまだ19世紀のよう。便利な技術を使い切れていないのが実情です。

 

三つ目はそうした働き方をきちんと評価するマネージメントが必要です。

 

「裏街道まっしぐら」からの出発

 

ー吉田さんの足跡を伺いたい。BT社長で、初の経団連役員で、という経歴を拝見するとエリート街道を順調に進んできたように思えます。

 

とんでもない、若いころは裏街道まっしぐらでしたよ。大学卒業直前に原因不明の病にかかって新卒で就職できませんでした。回復して働き始めてからも、親の反対を押し切って国際結婚してカナダに渡ったけど離婚。娘を抱えてとにかく働かなくてはならなかった。

 

“移民”という立場になったカナダで最初に入ったのが現地の通信会社でした。でもそれがITとの出会いになりました。成長途中の産業でしたからチャレンジできたんです。

 

ー仕事を続けてこられたのはなぜですか。

 

営業だったので自分の成果を明確に数字で世界に打ち出すことができたんです。そしてそれなりのポジションをつけてもらえた。できるんだっていう体験続きだったわけですよ。ものすごく面白かった。ITという新しいフィールドで、自分で市場をつくっている感があったんです。

 

ー活躍することへのねたみ、そねみはなかったんですか。

 

あったかしら。気がつきもしないくらい必死でした。その必死感って大事なんですよ。シングルマザーとして海外で生きていくためには選ぶ余地なんかなかった。生きていけりゃもうけもん、ってくらいの無謀感ですよ。

 

「消費」「市場」の鍵を握る女性

 

ー経団連の中で女性活躍の推進に取り組んでおられます。

 

大企業で女性の役員が出てきましたが、彼女たちにはメンター(助言者)やロールモデルがいません。最初にメンタープログラムの必要性を訴えました。次にしたのはウーマノミクス・プロジェクト、女性たちによって兆単位の経済成長の可能性があるということです。

 

米国は「インディウーマンマーケット」という新指標を打ち出しています。25歳以上のキャリアウーマンが生み出す新しい市場のことです。女性がアイディアを出していろんなヒット商品が生まれてきた。さらに女性が消費者となることでもっと消費が伸びる。

 

政府は「女性が輝く」とメッセージを出すけど、輝けって言ったって経済界は動きません。私たちの貢献を数字で表したいと考えています。

 

例えば沖縄の観光を伸ばしていくのにお金を落とすのは誰か。女性ですよ。世界の消費者市場は18兆ドルで、うち12兆ドルは女性が決めていると言われています。日本はこの比率がもっと高い。家庭での暮らしをみれば分かります。ある自動車メーカーのトップが言うには、男は車の色も決めさせてもらえないそうですよ。

 

ーずばり、日本女性登用が進まないのはなぜでしょう。

 

私は進んでいないとは思っていません。今、感じるのは躍動感です。日本の女性の底力はすごいと思っています。

 

ただ、世界の中ではジェンダーギャップが114位とかになる。欧米社会は30年、40年は先を行っているんです。日本の女性の力を活用しない手はないと思う。 私が(地位の一定割合を女性に割り当てる)クオーター制が嫌だと感じるのは、数字が目標になってしまうからです。その目標に至る議論をすっ飛ばして数字さえ達成すればいいとなるから。

 

みんなで“文化”を変えるためには『なぜ変えるか』っていう議論が必要です。

 

多様な働き方と貢献、フェアに評価を

 

ー沖縄は離婚率が全国一高く、シングルマザーも多い。働きながら子育てをする女性にアドバイスを。

 

テクノロジーを駆使してください。家で働ける仕事も増えています。そもそもオフィスにいて隣の人とどのくらい話していますか。けっこうみんなパソコンばかりを見て仕事をしているんじゃないですか。

 

在宅勤務ができる環境なら、娘が風邪を引いても預けないでいられました。

 

ただ、在宅勤務などを推進するには、多様な働き方による貢献度を数値化して評価されるフェアな仕組みがないといけません。上司の前で常に汗かいている人だけがいいポジションに上がるっていう文化では達成できません。

 

「取り戻せない時間がある」

 

ー第一線で働き続けながら、お子さんを育てられてきました。

 

決して取り戻せない時間があります。私自身、娘が幼いときはシングルマザーであることを隠して働いていました。生きていかねばならなかったとはいえ、振り返ると罪深く思います。

 

忘れられない記憶があります。娘が5歳のころ、その日は母の日でしたが取引先とゴルフに行って帰ってきたら、娘は泣き疲れて眠っていました。机の上には、娘が何日もかけて描いたであろう私の絵が置いてありました。「ママはいつも私の心の中にいるよ」というメッセージを添えて。その絵は今も大切に社長室に飾ってあります。

 

私は娘のために頑張ったつもりだけど、娘から見たら「ママはいつも仕事を選ぶ」と……。100の言い訳はあったとしても、娘にはかわいそうな思いをさせたことは事実です。後輩たちにはこんな思いはさせたくありません。

 

でもね、娘はいつまでも5歳ではありません。今24歳になり社会に出た娘にとって、私は最高のメンターになれると思います。社会人の先輩として、女性同士のアドバイスができる。

 

「ママかっこいい」が最高の勲章

 

ーお嬢さんは吉田さんを見てなんと言いますか。

 

「ママ、かっこいい」って。私の最高の勲章ですよ。私はこのために生きているんだと思った。女性たちには「あなたの苦労は報われるんだよ」というステージを見せてあげたい。皆さんにぜひ一緒に頑張ってほしい。私が一つのサンプルとなれば、と思います。

 

沖縄で話をして、女性の皆さんがみんな食いつくような目をしていました。のどから手が出てくるような光線が出ていました。このエネルギーを利用しなきゃ。

 

聞き手/島 洋子(しま・ようこ)
琉球新報社編集局経済部長。1991年に入社し政経部、社会部、中部支社宜野湾市担当、経済部、政治部、東京報道部長、政治部長などを経て現職。連載「ひずみの構造―基地と沖縄経済」で、2011年「平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞」を受賞。沖縄市生まれ。

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